2025-06-30
「CHAMP」で考える商談の進め方 ― 顧客の本音に迫る営業術
BtoB 営業・マーケティング コラム
営業現場で成果を上げるためには、顧客の“本音”をいかに引き出し、的確に提案につなげられるかが大きなカギとなります。表面的なニーズや条件だけを聞き出すだけでは、商談は停滞しがちです。そんな中、近年注目されているのが「CHAMP」というフレームワークです。
「CHAMP」は、顧客が本当に困っていることは何か、誰が意思決定を左右しているのか、予算の背景や社内の優先順位まで、多角的な視点から商談を整理する枠組みです。単なるチェックリストではなく、顧客の内側にある課題や意図を探り、信頼関係を築くための“問いかけ”として活用する営業担当者も増えています。
本稿では、「CHAMP」を使って顧客の本音に迫り、より前向きな商談につなげていくための考え方や運用のポイントを整理します。営業活動におけるコミュニケーションの質を高めたい方に、現場で役立つヒントをお届けします。
目次
「CHAMP」という視点が求められる背景
営業活動において、商談を体系的に進めるためのフレームワークは長く活用されてきました。これらの枠組みは、現場の担当者が自分の感覚や経験だけに頼らず、一定の基準に沿って顧客を見極め、次のアクションを明確にするうえで大きな役割を果たしてきたと言えます。
一方で、市場環境や顧客側の状況は、年々変化しています。企業ごとに置かれている事情やビジネスの課題、意思決定の進め方が多様化し、営業担当者が向き合う情報量や調整の幅も広がっています。従来の枠組みでは「うまく説明できない」「商談が前に進まない」と感じる場面が増え、商談プロセスそのものを改めて見直す必要性が生じています。
こうした中で、「CHAMP」は、単に“案件の温度感”や“商談の進捗”を測るだけでなく、顧客企業の内部事情や課題の本質に目を向け、商談の本質的な障壁や機会を見抜く視点を提供します。各項目が現場の“肌感覚”や経験則と重なりやすく、定量的な管理と同時に営業担当者自身の思考や工夫も自然に引き出すことができるのが特徴です。
営業現場のリアリティに寄り添い、顧客の立場や変化する状況に対応できる枠組みとして、「CHAMP」は新たな選択肢となっています。

「CHAMP」とは何か
「CHAMP」は、営業活動における顧客分析や商談管理をサポートするためのフレームワークです。その名称は、Challenges(課題)、Authority(決裁権・影響力)、Money(予算)、Prioritization(優先順位)という4つの要素の頭文字を取って名付けられています。
このフレームワークの特徴は、商談を進めるうえで単に「相手の条件がそろっているか」だけを見るのではなく、顧客の置かれている状況や、社内での動き、検討の背景など、より多角的な観点から情報を整理できる点にあります。
Challenges(課題)
顧客が現在どのような課題を抱えているのか、その背景や本質は何なのかを丁寧に見極めます。単なる「ニーズ」にとどまらず、顧客の組織や事業全体にとっての重要なテーマにまで踏み込んで捉えることが重視されます。
Authority(決裁権・影響力)
商談の成否を左右するのは、必ずしも「肩書き」だけではありません。意思決定にどのような人が関与し、誰がどの程度の影響力を持っているのか――この観点を明確にしながら、商談を進めていきます。
Money(予算)
「予算の有無」や「金額」に目を向けるだけでなく、顧客がどこにコストをかけたいと考えているか、何に価値を感じているかといった背景まで捉えます。価格交渉にとどまらず、提案の優先順位を高めるための手がかりとしても重要です。
Prioritization(優先順位)
顧客の中で自社の提案がどの位置にあるのか、また、どのタイミングで検討が進むのかといった「優先順位」の見極めが商談の進捗を左右します。競合他社との比較や、社内事情による変化にも注意を払いながら、柔軟に対応していきます。
従来よく使われてきたフレームワーク(たとえば「BANT」など)は、条件や進捗を明確に判定するためのものが多いですが、「CHAMP」はより現場に近い形で顧客の実情を捉えやすい点が特徴です。あくまで商談の現場感や顧客理解を深めるための「視点」として活用されることが多く、営業担当者それぞれの経験やノウハウともなじみやすい枠組みとなっています。
「Challenges」― 顧客課題の捉え直し
営業活動の出発点として「顧客がどんな課題を抱えているのか」を把握することは、どの時代も変わらない基本です。しかし、実際の現場では「課題の確認」が形式的なやりとりにとどまり、本質に迫れないまま商談が停滞することも少なくありません。
「CHAMP」における「Challenges」は、従来の「困りごと」や「要望」だけを聞き出す姿勢とは異なります。顧客が表向きに語る課題やニーズだけでなく、その背景にある組織全体の動きや、経営層・現場それぞれの視点での“本当の問題”に目を向けることが重視されます。
たとえば、顧客が「コスト削減」を口にしたとしても、それが単なる費用圧縮の話なのか、業務プロセスの抜本的な見直しなのか、はたまた新たな投資判断の布石なのか――背景によって意味合いは大きく異なります。現場で会話を重ねながら、「なぜその課題が重要なのか」「課題が解決されないことでどんな影響があるのか」といった点に一歩踏み込んで対話を重ねることが、商談の前進につながります。
また、顧客自身が課題を明確に認識できていない場合も珍しくありません。営業担当者が、顧客の話に耳を傾けつつ、市場環境や業界の動き、自社サービスが提供できる価値を照らし合わせて課題の“輪郭”を整理することで、顧客の気づきや新たな関心を引き出すことも可能になります。
こうした取り組みは、単なる情報収集の域を超え、信頼関係の構築や、より深いレベルでの提案につながっていきます。「Challenges」を捉え直す姿勢は、商談の入口だけでなく、提案内容の精度やその後の関係構築にも大きく影響する重要なポイントと言えるでしょう。
「Authority」― 意思決定に影響を与える人
営業活動において、提案や商談を前進させるためには「誰が意思決定に関わっているか」を見極めることが欠かせません。「Authority」という項目は、単に決裁権を持つ人物を特定するだけでなく、社内での影響力や意思決定の流れを把握するための視点を提供します。
多くの場合、商談の最初に接点を持つ相手がそのまま最終的な決裁者であるとは限りません。実際には複数の部門や担当者が関与し、役職や肩書きだけでは見えてこない「社内の力関係」や「非公式な意見調整」が大きく影響することもあります。
そのため、単純に「誰が決裁権を持っているか」を尋ねるだけでなく、日々のコミュニケーションや情報のやり取りを通じて、「どのような立場の人が商談の進み方に影響しているか」「提案内容に納得してもらうべき人は誰か」といった点に意識を向けることが重要です。
また、意思決定に関与する人は案件ごとに異なるケースも多く、同じ企業でもプロジェクトや導入規模によって関係者の顔ぶれが変わることがあります。営業担当者としては、表面的な情報だけで判断するのではなく、会話の中からヒントを拾い上げたり、社内の事情や組織図の裏側にある人間関係にも目を向けたりすることが求められます。
「Authority」を的確に把握できれば、提案内容やアプローチ方法の精度が格段に上がります。決裁権者だけでなく、その周囲のキーパーソンや現場担当者の意見・感情も丁寧に汲み取ることで、商談をよりスムーズに、かつ着実に進めていくことが可能となるでしょう。
「Money」― 予算の背景に目を向ける
商談を進めるうえで「予算」は避けて通れないテーマです。しかし、「CHAMP」では単に「予算の有無」や「金額」の確認だけで判断を下すことは推奨されていません。むしろ、その背景にある顧客の考え方や組織としての意思、何に価値を置いているのかといった部分まで目を向けることが重要とされています。
たとえば、「今年度の予算はすでに埋まっている」という返答を受けた場合、そこで商談を終わらせてしまうのではなく、「なぜその予算配分になったのか」「どのような条件が整えば追加の予算を検討できるのか」といった点を丁寧に探ることで、次の一手につなげることができます。
また、顧客が示す「価格感」や「費用対効果」の裏には、組織全体の戦略や事業方針、過去の投資実績などさまざまな要素が隠れていることも多いものです。営業担当者としては、表面的な数字や条件にとらわれず、顧客が「何にお金をかけたいと考えているのか」「本当に優先したいテーマは何なのか」という点を探る姿勢が求められます。
さらに、競合提案との比較や他部門とのバランス、意思決定のタイミングによっても予算の出し方が変わる場合があります。単なる「予算確認」に終始することなく、商談全体の流れや顧客組織の動きを踏まえて柔軟に対応することが、案件化の可能性を広げるポイントとなります。
「Money」という観点は、営業活動における現実的な制約条件でもありつつ、顧客との対話を深める入口でもあります。数字の裏側にある事情や優先順位を読み解くことで、より納得感のある提案やコミュニケーションにつなげていくことができるでしょう。
「Prioritization」― 提案の優先順位を考える
どれだけ良い提案を準備しても、顧客の中でその提案が「今」検討すべき事項として優先順位が高くなければ、商談はなかなか前に進みません。「Prioritization」は、顧客の意思決定や社内プロセスの中で、自社の提案がどの位置づけにあるかを見極めるための視点です。
営業現場では、案件の温度感や進捗状況を把握する場面がよくありますが、その背景には「顧客の目線での優先順位」が大きく影響しています。たとえば、同じような課題を抱えていても、他の重要なプロジェクトが先行している場合や、社内のリソースが別の業務に割かれている場合には、自社の提案が後回しにされることも珍しくありません。
このような状況を見極めるには、単に「ご検討状況はいかがでしょうか」と尋ねるだけでなく、「現在、御社内で優先的に取り組まれているテーマは何か」「どのような条件が整えば本格的な検討が始まるか」といった質問や対話を通じて、顧客の事情を深く理解することが大切です。
また、顧客の組織内でも、部門ごとに課題感や関心の度合いが異なる場合があります。そのため、複数の関係者とコミュニケーションを重ねることで、提案内容がどのように受け止められているのか、社内の優先順位にどの程度影響を与えているのかを見極めていくことが求められます。
営業担当者にとって、「Prioritization」を意識することは、商談の停滞や失注を未然に防ぐだけでなく、次のアクションや提案タイミングの判断材料にもなります。顧客の状況に合わせて柔軟に対応することで、より良いタイミングで価値ある提案を届けることができるでしょう。
「CHAMP」運用の実際 ― 活かし方と注意点
「CHAMP」を営業現場で実際に活用するためには、フレームワークの枠にとらわれすぎず、現場の状況や顧客ごとの個性に合わせて柔軟に運用していく姿勢が欠かせません。ここでは、実践における活かし方と注意点を整理します。
まず、各項目をチェックリストのように「埋めること」を目的にするのではなく、日々の対話や顧客とのやり取りのなかで自然に情報を集めていくことが大切です。たとえば、「Challenges」については表面的な課題だけで満足せず、時には会話を重ねるなかで顧客自身も気づいていなかった本質的な課題を浮き彫りにできる場合があります。
「Authority」や「Money」「Prioritization」も同様に、一度のヒアリングで全てを把握しようとせず、関係性を築きながら断片的な情報を丁寧に集めていくプロセスが有効です。各項目の情報がそろわない場合も、曖昧なままにせず、仮説を立てて検証し、状況に応じて軌道修正を図る柔軟性が求められます。
また、「CHAMP」をチーム全体で運用する際には、情報を共有しやすいフォーマットや運用ルールを設けておくと、担当者ごとに視点がばらつくことを防げます。他部門との連携や、営業ミーティングでの情報交換を通じて、組織全体でフレームワークの効果を高めていくことも有効です。
注意点としては、「CHAMP」という枠組みそのものが目的化してしまい、商談の本質や顧客との信頼関係構築がおろそかになるリスクがあることです。たとえば、「項目を埋めること」に気を取られすぎて、肝心の顧客との対話や提案の質が後回しになると、本来の目的から外れてしまいます。
また、項目ごとにありがちな落とし穴としては、「Challenges」では顧客の表面的な発言だけで満足してしまう、「Authority」では組織図だけを鵜呑みにして実際の影響力を見誤る、「Money」では数字の大小だけに注目して顧客の意図を見落とす、といった例が挙げられます。「Prioritization」においても、顧客側の優先度を思い込みで判断してしまうことには注意が必要です。
「CHAMP」は、営業担当者自身が日々の活動を振り返り、商談ごとに状況を整理し直すための“思考の補助線”のような役割も果たします。枠組みに縛られすぎず、現場の実情や顧客の変化に合わせて柔軟に活用することが、成果につながるポイントとなるでしょう。
まとめ
本稿では、「CHAMP」というフレームワークの特徴や各要素の考え方、そして実際の営業現場での活かし方や注意点について整理してきました。「CHAMP」は、単なるチェックリストとして使うのではなく、顧客の状況や商談ごとの背景を多面的に捉えるための“視点”として活用できる点に特徴があります。
営業現場の実態は、日々変化し、決まったパターンやマニュアル通りに進むことは少なくなっています。その中で「CHAMP」は、現場担当者が一つひとつの商談や対話を丁寧に見つめ直すきっかけとなり、顧客理解の深度や提案の質を高める助けとなります。
フレームワークを使うことが目的化するのではなく、あくまで営業活動の質を向上させる“道具”として位置づけることが重要です。現場の工夫や経験、チームでの知恵の共有とあわせて、「CHAMP」の考え方を柔軟に取り入れていくことで、より良い顧客関係の構築や商談の前進につなげていけるはずです。
