2025-07-09
ダブルループ学習がもたらす組織変革 ― “問い直す力”が組織を動かす
BtoB 営業・マーケティング コラム
組織で日々の業務やプロジェクトを進めていると、「今のやり方が本当に最適なのか」「そもそもの前提に見直すべき点はないか」と感じる場面に出会うことがあります。定められた手順や方針のもとで着実に成果を出していく一方で、既存の枠組みや考え方に無意識のうちに縛られてしまうことも少なくありません。
そうした中で、組織として持続的に学び続け、新しい視点や価値を生み出していくためには、日々の業務改善だけでなく、組織の前提や習慣そのものを問い直す姿勢が求められます。「ダブルループ学習」は、そのような組織の学びを考える上で重要な視点となる考え方です。
本記事では、ダブルループ学習の基本的な考え方や、その意義、実践のヒントについて紹介します。現場の知恵や気づきを組織の力に変えていくための手がかりとして、ダブルループ学習をどう捉えるか、あらためて見直してみたいと思います。
目次
シングルループ学習とダブルループ学習 ― 基本の考え方
「ダブルループ学習」という言葉を理解するためには、まず「シングルループ学習」との違いに目を向ける必要があります。シングルループ学習とは、現状の目標や前提をそのまま受け入れ、与えられた枠組みの中で成果を上げようとする学習のことです。例えば、業務の中でミスが発生したときに、手順を見直してミスを減らそうとする行動がこれにあたります。現場で日常的に行われている改善活動や業務効率化の多くは、シングルループ学習の範疇に収まります。
一方、ダブルループ学習は、そもそもの目標や前提、業務の枠組み自体を問い直し、「なぜこの方法なのか」「この基準は本当に妥当なのか」と考えるプロセスを含みます。手順やルールそのものを疑い、新しい視点から再設計することで、従来とは異なる解決策やイノベーションが生まれる可能性があります。ミスの原因を単純な手順ミスだけでなく、業務フローや役割分担、そもそもの目標設定などにまでさかのぼって見直す姿勢が、ダブルループ学習の特徴といえます。
シングルループ学習は、既存の枠組みの中で効率よく成果を出すために有効ですが、それだけでは解決できない課題や、新たな価値を生み出す場面では限界があります。ダブルループ学習の視点を組織に取り入れることで、従来の常識や思い込みから自由になり、より本質的な問題解決や成長の機会を得ることができます。

ダブルループ学習が組織にもたらす変化
ダブルループ学習の視点を組織に取り入れることで、さまざまな変化がもたらされます。まず大きいのは、これまで「当たり前」としてきた考え方ややり方を、組織全体で問い直す姿勢が生まれることです。特定のやり方やルールに対して「なぜこの方法なのか」「他にもっと良い方法はないのか」といった疑問を自然に持てるようになれば、従来の枠組みにとらわれずに新しい選択肢や発想を生み出しやすくなります。
こうした姿勢は、業務プロセスの見直しだけでなく、組織文化やコミュニケーションのあり方にも変化をもたらします。例えば、暗黙の了解や、言葉にしなくても通じる「慣れ」に対しても一度立ち止まって見直すことで、組織内に埋もれていた課題や非効率が明るみに出ることがあります。
また、ダブルループ学習が浸透すると、意見や提案をしやすい雰囲気が生まれやすくなります。上司や同僚との間で「それは本当に最適か」「他に方法はないか」といった対話が増えることで、組織全体が自律的に学び、成長し続ける土壌が整います。このような環境は、変化に対応する力だけでなく、メンバー一人ひとりの主体性や創造性を引き出すうえでも重要な役割を果たします。
結果として、ダブルループ学習の実践は、組織が「決まったやり方を守る集団」から、「前提を問い直しながら進化する集団」へと変わるきっかけになります。固定観念から解き放たれ、新しい価値や成果を生み出せる組織づくりにおいて、ダブルループ学習は欠かせない考え方といえるでしょう。
ダブルループ学習を阻む壁とその正体
ダブルループ学習の重要性が理解されても、実際に組織の中で根づかせるのは簡単なことではありません。その背景には、いくつかの「見えにくい壁」が存在しています。
まず挙げられるのは、これまで築き上げてきたやり方や成功体験への強いこだわりです。長年にわたり機能してきたルールや習慣ほど、「今さら変える必要はない」「うまくいっているのだから現状維持でいい」という心理が働きやすくなります。こうした気持ちが、前提や枠組み自体を問い直すことへの抵抗感につながります。
また、組織の中で「周囲と違う意見を言いづらい」「空気を読んで従うほうが無難」という雰囲気が強い場合も、ダブルループ学習は停滞しやすくなります。同調圧力や上下関係を気にする意識が根強いと、前例や既存のルールを疑うこと自体が避けられやすくなり、本音や率直な意見が出にくい状態が続きます。
さらに、日々の業務や目先の成果を優先しがちな環境も、壁の一つです。業務改善や効率化といった短期的な目標の達成が優先されると、組織の根本に立ち返って問い直す余裕が生まれにくくなります。加えて、ミスや失敗に対する厳しい評価がある場合は、リスクを避けて従来通りのやり方を守ろうとする意識が強まることもあります。
このように、ダブルループ学習を阻む壁の多くは、組織の文化やコミュニケーションのあり方、心理的な安全性の不足など、目には見えにくいところに潜んでいます。まずはこうした壁の存在に気づき、その正体を理解することが、ダブルループ学習への第一歩となるでしょう。
ダブルループ学習を促進するためにできること
ダブルループ学習を組織の中で促進していくためには、日常のちょっとした工夫や、コミュニケーションのあり方を見直すことが重要です。特別な仕組みや大掛かりな制度を設けなくても、意識の持ち方や、日々のやり取りを少し変えるだけで前提を問い直す文化は徐々に根づいていきます。
まず、会議や打ち合わせの場で「このやり方はなぜ必要なのか」「そもそも、目指しているゴールは本当に適切か」といった問いを意識的に投げかけることが効果的です。誰かが発言した内容をそのまま受け入れるのではなく、「なぜそう思ったのか」「ほかの可能性はないか」と、一歩踏み込んで確認することで、多様な視点や意見が出やすくなります。
また、上下関係や序列を気にしすぎないコミュニケーションの場づくりも大切です。役職や立場を超えて率直に話し合える雰囲気を意識することで、立場に関係なく前提を問い直す意見が出しやすくなります。これには、発言に対して頭ごなしに否定せず、まず受け止める姿勢が求められます。
さらに、日々の業務や仕組みについて、「当たり前」と思っていることを意識的に棚卸しする時間を設けることも一つの方法です。定期的に「このルールは今も有効か」「もっと良い方法はないか」と見直す習慣を作ることで、ダブルループ学習のきっかけが増えていきます。
もう一つ重要なのは、フィードバックのあり方です。失敗やうまくいかなかった経験を責めるのではなく、「なぜそうなったのか」「どんな前提が影響していたのか」を冷静に振り返ることで、組織全体で学びを共有できるようになります。心理的安全性を意識し、誰もが安心して意見や疑問を発信できる環境づくりが、ダブルループ学習の土壌となります。
こうした積み重ねが、組織の前提や枠組みを見直し、新しい発想や取り組みを生み出す力につながっていきます。日々の現場でできる小さな工夫こそが、ダブルループ学習を促進する大きな一歩となるでしょう。
組織学習の視点から見直す業務改善
業務改善といえば、多くの場合は手順の効率化やツールの導入、ミスの削減といった、目に見える変化を重視しがちです。しかし、こうした取り組みだけでは思うような成果が出なかったり、改善の効果が一時的に終わってしまったりすることも少なくありません。ここで重要になるのが、「なぜこの業務がこの形になっているのか」「このやり方が本当に今の目的に合っているのか」といった、業務の根本に立ち返る視点です。
組織学習の観点から業務改善を見直すことで、単なる部分的な効率化にとどまらず、業務の前提や目的そのものを問い直す機会が生まれます。例えば、長く続いているルールや手続きに対し、「なぜ続いているのか」「現状に即しているか」をあらためて見直すことで、不要な工程を整理できたり、よりシンプルな仕組みに変更できる場合があります。
また、新しい仕組みやツールを導入する際にも、「これまでのやり方のどこが課題だったのか」「何を実現したいのか」といった問いを明確にすることで、形だけの導入や場当たり的な対応を避けることができます。業務改善が一時的なものに終わるのではなく、組織全体で継続的に学びながら見直しを続けていくためには、このような問い直しの姿勢が欠かせません。
さらに、日々の業務に携わる現場のメンバーが、「こうしたらもっと良くなるのではないか」と感じたことを気軽に発信できる環境づくりも、組織学習を促進するポイントです。上から与えられた改善策だけに頼るのではなく、一人ひとりが気づきを共有し合うことで、より実態に即した業務改善や新たな発想が生まれやすくなります。
業務改善を「効率化」や「コスト削減」といった目的だけに限定せず、組織として学び続ける仕組みづくりの一環として捉え直すことで、日々の業務が持つ意味や価値も見えてくるはずです。ダブルループ学習の視点を業務改善に活かすことで、組織全体がより柔軟に変化し、自ら進化していく力を高めていくことができます。
まとめ
ダブルループ学習は、目の前の課題解決や業務改善にとどまらず、組織が抱える前提や枠組みそのものを問い直し、新しい視点や発想を生み出すための重要な考え方です。既存のやり方に疑問を持ち、時には立ち止まって「本当にこれで良いのか」と問いかけることは、簡単なようでいて意外と難しいものです。しかし、この問い直す力こそが、組織の成長や変化のきっかけとなります。
日常の業務やコミュニケーションの中に、ダブルループ学習の視点を少しずつ取り入れていくことで、組織は固定観念から自由になり、自律的に学び続ける力を養うことができます。また、心理的な安全性を大切にし、多様な意見や視点が自然に出てくる環境を整えることも、ダブルループ学習を定着させるためには欠かせません。
組織の成長や変革は、一度きりの特別な取り組みで実現できるものではありません。日々の小さな問い直しや学びの積み重ねが、やがて大きな変化につながります。ダブルループ学習の考え方を活かしながら、組織全体でより良い未来を切り拓いていくことが、これからの時代にも求められる姿勢といえるでしょう。
