2025-06-12
「価格競争に巻き込まれない」営業戦略のつくり方
BtoB 営業・マーケティング コラム
価格競争は、どの業界でも避けて通れないテーマです。同じような商品やサービスが並ぶ中で、「結局、価格で決まってしまう」と感じることも少なくありません。営業やマーケティングの現場では、値引き要請への対応や、他社との比較に頭を悩ませる場面が続きます。一方で、「価格だけで選ばれない」営業活動を実現したいという声も根強く存在します。
本記事では、価格競争に巻き込まれずに営業成果を高めるための考え方について、原則に立ち返りながら掘り下げていきます。現実的な制約や市場の相場観を踏まえつつ、今日から実践できる視点や工夫を考えてみたいと思います。
価格競争に巻き込まれる理由とは
どんな企業でも、できることなら「値下げせずに売りたい」と考えるものです。しかし実際には、多くの営業現場で価格交渉が繰り返され、「他社はいくらだった」「もっと安くならないか」といった話に終始してしまうことがあります。なぜ、多くの企業がこうした価格競争に巻き込まれてしまうのでしょうか。
まず一つ挙げられるのは、お客様自身が“比較検討”を前提に情報収集を行うようになったことです。インターネットや各種メディアの発達によって、商品やサービスの情報は簡単に手に入る時代になりました。お客様にとって複数社を比較し、価格を含めた条件を並べて判断することは、今や当たり前のプロセスです。
また、競合する商品・サービス自体が「似ている」と感じられやすい状況も、価格競争が起こりやすくなる要因です。カタログやウェブサイトに並ぶ説明文は、どうしても同じような表現が多くなりがちです。加えて、企業側も「業界標準」や「相場」に合わせた訴求をしやすいため、結果的に“どれを選んでも大差がない”という印象を与えてしまいます。
さらに、営業担当者側の姿勢や提案の仕方にも理由がある場合があります。お客様の価格に対する質問や値引き要請に対し、つい安易に「ご相談できます」と応じてしまったり、「最終的には価格で勝負するしかない」と思い込んでしまうケースです。こうした対応が続くと、「この会社も結局は値引きしてくれる」という認識が定着しやすくなります。
このように、価格競争に巻き込まれる背景には、情報が行き渡った現代の購買行動の変化、商品の差別化が難しい市場環境、営業現場での対応のあり方など、複数の要素が複雑に絡み合っています。まずは、この構造を正しく認識することが、次の一歩を考えるための出発点となります。

価格以外で選ばれるために何が必要か
多くの企業が「うちは価格以外の価値で選ばれたい」と考えています。しかし、現実には“価値訴求”という言葉だけが先行し、実際にどのような違いを生み出せるのかが曖昧なままになってしまうことも珍しくありません。価格以外の理由で選ばれるためには、いったい何が必要なのでしょうか。
まず重要なのは、お客様が“違い”を実感できるポイントをどれだけ明確に伝えられるかということです。どの企業も商品やサービスに工夫を凝らしているものの、その工夫が他社とどう違うのか、言葉や形で具体的に示すことができなければ、結局は価格以外の選択肢を持てません。例えば、納品までのスピード、アフターフォローの体制、導入のしやすさ、提案の柔軟さなど、競合と比べて“自社ならでは”と胸を張れる要素は何かを改めて見直すことが出発点となります。
次に、「他社でもできそう」と思われてしまう部分と「うちだけができる」部分の違いを意識することも大切です。お客様は、違いがわかりやすいほど選ぶ理由を見つけやすくなります。逆に、どこも似たような内容だと判断されれば、最終的には価格しか比較材料がなくなってしまいます。
また、体験やプロセス自体が差別化要素になることもあります。たとえば、打ち合わせや初回提案の段階で「この会社は話が早い」「こちらの要望をよく聞いてくれる」といった印象を持ってもらうだけでも、他社との差を感じてもらえることがあります。商品やサービスそのものの違いに加え、どのようなやり取りを重ねてきたか、その過程での対応力や柔軟さも評価されるポイントになり得ます。
さらに、お客様自身が「自分のための提案だ」と感じられるような関わり方ができているかどうかも、重要な観点です。相手の課題や状況をよく理解したうえで、その会社に合った提案やサービスを提示できると、「単なる商品売り」ではなく「自分ごと」として受け止めてもらいやすくなります。
まとめると、価格以外で選ばれるためには
- お客様が“違い”を認識できるポイントを明確に示すこと
- 「自社ならでは」の価値をきちんと整理し、伝えること
- 商品やサービスだけでなく、やり取りや体験そのものも差別化の一部と考えること
- 個別対応や柔軟な提案を通じて、選ばれる理由をつくること
が求められます。
価格だけが比較軸になりがちな中でも、こうした視点を持ち続けることが、「選ばれる理由」を積み重ねる第一歩となります。
相場観と向き合う営業視点
営業活動の中で、「うちだけ高い価格を提示しても選ばれないのではないか」と感じることは多いものです。どれだけ自社の価値を伝えたいと考えていても、世の中には「相場観」という見えない基準が存在し、それを無視して商談を進めることは現実的ではありません。
相場観とは、商品やサービスごとに多くの人が「だいたいこれくらいだろう」と考えている一般的な価格帯のことです。お客様も事前にインターネットで調べたり、過去の取引経験から一定のイメージを持って商談に臨んでいる場合がほとんどです。そのため、相場を大きく上回る価格を提示すると、「なぜそんなに高いのか」と疑問を持たれたり、最初から選択肢に入れてもらえないこともあります。
一方で、相場よりも極端に安い価格を提示した場合でも、必ずしも有利になるとは限りません。安すぎる価格は「何か理由があるのでは」と不安を招くことがありますし、品質やサポート面で不安視されてしまうこともあります。つまり、相場から逸脱した価格設定は、単に高い・安いというだけでなく、「適切な信頼感」を損なうリスクを伴っています。
こうした現実のなかで、営業担当者はどのように相場観と向き合えばよいのでしょうか。まず重要なのは、自社が提供する価値が、世間の相場観の中でどのように位置付けられているのかを把握することです。競合他社の価格やサービス内容を調べ、顧客がどんな基準で比較しているのかを知ることは、戦略を立てるうえで欠かせません。
そのうえで、相場観を無理に否定するのではなく、受け止めつつ差別化ポイントを丁寧に伝える姿勢が大切です。価格が相場並みであっても、「なぜこの価格なのか」「他社と比べてどこが違うのか」をしっかり説明できれば、単なる価格競争に巻き込まれるリスクを減らすことができます。
また、顧客が求める価値や期待しているサービスの範囲を明確にすることも、相場観との向き合い方として有効です。価格だけでなく、「この会社なら安心できる」「任せても大丈夫だ」といった納得感を与えることができれば、相場の中で“選ばれる理由”を作り出すことが可能です。
結局のところ、相場観を無視することはできませんが、そのなかで「自社ならでは」の立ち位置を見極め、納得してもらえる理由を丁寧に伝えていくことが、営業活動における現実的なアプローチだと言えます。
値引きを前提にしない提案のあり方
多くの営業現場で、商談が進むにつれて「もうひと声、安くなりませんか?」といった話が出てくるのはよくある光景です。値引きが商談成立の“常識”として定着してしまうと、提案内容よりも価格だけが交渉の中心となり、本来伝えたい自社の強みやこだわりがかすんでしまいます。こうした状況を避けるためには、最初から「値引きありき」で話を進めない姿勢が重要です。
まず考えたいのは、値引きが前提になる商談のパターンです。たとえば、お客様側が「どうせ最後は下がるだろう」と思い込んでいる場合や、業界の慣習として値引き交渉が定着している場合、営業側も無意識のうちに“値下げ余地”を含んだ提案をしてしまいがちです。その結果、本来提案したかった内容よりも、価格の調整幅ばかりが注目されてしまいます。
この流れを変えるためには、価格以外の部分で“選ばれる理由”をしっかり提示することが欠かせません。たとえば、「なぜこの提案が最適なのか」「他社ではなく自社を選ぶ価値は何か」といったポイントを、商談の早い段階から丁寧に伝えることが重要です。価格についても、あらかじめ「この内容にはこれだけの意味や背景がある」という納得材料をセットで示すことで、単なる金額の話に流されにくくなります。
また、顧客とのやり取りの中で、相手の期待や目的を深く理解しようとする姿勢も大切です。ただカタログや条件を説明するだけでなく、「このお客様は本当は何を重視しているのか」「どこに課題や不安を感じているのか」を掘り下げることで、価格以外の提案材料を見つけやすくなります。場合によっては、追加のサポートや独自の提案プロセスそのものが、「この価格でも納得できる」と感じてもらう後押しになることもあります。
さらに、値引き交渉が始まったときの対応にも注意が必要です。値引きの要望が出た場合も、ただ「分かりました」と応じるのではなく、「なぜ値引きをご希望なのか」「どんな部分がご懸念なのか」と理由や背景を聞き出すことで、価格以外の解決策を探ることができます。これにより、安易な値下げ合戦に巻き込まれず、双方が納得できる着地点を見つけやすくなります。
「値引きありき」の流れから抜け出すには、営業側の提案姿勢や顧客とのコミュニケーションの積み重ねが欠かせません。価格の話に入る前に“選ばれる理由”をしっかり用意し、商談の初期段階からその価値を伝えることで、値引きが主役にならない提案の形が見えてきます。
営業が「比較されにくくなる」ためにできること
営業活動において、どうしても避けられないのが「他社との比較」です。どれだけ自社の特徴や強みを伝えても、お客様は複数の選択肢を見比べて判断する傾向があります。ただ、すべてを同じ土俵で比べられてしまうと、最終的に“価格”や“条件の良さ”だけが決め手になってしまうことも少なくありません。
こうした中で、「比較されにくい状態」をつくることは営業活動のひとつの目標と言えます。そのためには、単に「うちの商品はここが違う」と訴えるだけでなく、顧客自身が「自分のための提案」と感じられるような関わり方が求められます。
たとえば、顧客ごとに異なる課題や状況にしっかり向き合い、相手が本当に必要としていることを丁寧に掘り下げることで、「他社と並べて比較できる商品」から「自分の会社に合った提案」へと印象を変えることができます。お客様自身が「自分ごと」として受け止めてくれるほど、単純な条件比較の対象から外れる可能性が高まります。
また、“比較軸をずらす”発想も有効です。一般的な比較ポイント(価格やスペック、納期など)以外に、「当社ならでは」のサポート体制や、独自の運用ノウハウ、導入後の伴走体制といった“他にはない視点”を提示することで、比較そのものの軸を変えてしまうことができます。これにより、単純なスペックや金額では測れない価値を印象づけることが可能です。
さらに、目先の商談だけでなく、長期的な関係性づくりも大切です。一度限りの取引ではなく、将来の相談や継続的なサポートを見据えて関係を築いていくことで、お客様にとって「困った時にまず声をかけたい相手」として認識されるようになります。こうした信頼関係が生まれることで、「他と比べてどちらが安いか」だけでは測れない選択理由が生まれやすくなります。
営業現場では、つい「違い」を伝えることに注力しがちですが、本当に大切なのは、顧客一人ひとりの“選ぶ理由”を一緒に作っていく姿勢です。その積み重ねが、「比較されにくい存在」への第一歩となります。
まとめ
価格競争を避けたいと考えていても、実際には相場観や顧客の比較行動といった現実的な制約を無視することはできません。それでも、単に「値引きできません」と主張するだけではなく、価格以外の部分で選ばれる理由をいかに用意できるかが、営業活動の質を左右します。
本記事で取り上げたように、
- 顧客が実感できる違いを明確に伝える
- 相場観と現実的に向き合いながら、自社の価値を整理する
- 値引きを前提としない提案の姿勢を持つ
- 個別対応や「当社ならでは」の提案で比較の軸をずらす
といった積み重ねが、「価格だけが決め手になる」状況を変えるきっかけになります。
特別なノウハウがなくても、まずは日々の提案やコミュニケーションの中で、価格以外で選ばれる理由をひとつずつ積み重ねていくこと。それが、結果的に“価格競争に巻き込まれない営業”への第一歩となります。日々の現場で感じる小さな違和感や、お客様の反応に目を向けながら、自社ならではの提案力をさらに磨いていきたいものです。
