2025-06-20

提案書・営業メールはLLMでどこまで楽になる? ― 活用できる工程を探る

BtoB 営業・マーケティング コラム

提案書や営業メールの作成は、「文章を書く作業」と捉えられがちですが、実際にはそれ以前の工程に多くの時間と労力がかかっています。誰に対して何を伝えるのか、どんな構成で伝えるのか──そうした前提が定まらなければ、いくら言葉を並べても伝わる文案にはなりません。

昨今、生成AI(LLM)の進化によって「提案書を自動で書けるのでは」と期待する声も聞かれますが、現実にはまだそのまま使える場面は多くありません。一方で、文案を整える“前の工程”──つまり思考を整理したり、構成を検討したりする段階では、LLMを有効に活用できる場面があります。

本記事では、提案書や営業メールの作成プロセスを工程ごとに分解し、LLMが「使える工程」と「使いにくい工程」を見極めながら、実務に活かすための視点と工夫を考えていきます。

整える工程から始めるLLM活用

提案書や営業メールの作成は、文章を書くこと自体よりも、書くまでの準備に時間がかかる仕事です。目的の確認、相手企業の状況整理、伝えたい要点の選定、話の流れの設計といった「整える工程」が整ってはじめて、文案が意味を持ちます。言い換えれば、この整える作業が不十分なままLLMに「書かせよう」としても、うまくいかないのは当然です。

実際、LLMを使い慣れていない方ほど、「完成された提案書やメールの文章をAIが代わりに出してくれるかどうか」という視点で判断しがちです。しかし、現時点のLLMは人間の意図や背景を察して自動で最適な文案を生成するようなものではありません。むしろ、考えの整理や仮説の言語化、構成のたたき台づくりといった“前工程”にこそ活用の余地があります。

たとえば、提案の目的や伝えたいポイントを自分の言葉でLLMに投げかけることで、抜けや曖昧な部分が浮かび上がってくることがあります。また、過去の提案書を読み込ませて要素の共通点を抽出したり、相手企業のWebサイトやプレスリリースを読み込んだ上で関心のありそうな話題を要約させたりするのも、整える工程の一部です。こうした作業は本来人間が頭の中でやっていたことですが、LLMを“壁打ち”の相手として使うことで、より早く、より客観的に整理することが可能になります。

ポイントは、「完成した文章を出力してもらう」のではなく、「考えを進めるための補助」としてLLMに働かせるという姿勢です。ここを履き違えると、「期待したほどの成果が出なかった」「結局自分でやったほうが早かった」と感じることになります。

整える工程にLLMを使う利点は、文章の巧拙ではなく、“段取り”が可視化される点にあります。書くべきことが明確になれば、実際の文案作成は格段にスムーズになりますし、その時点でLLMに再び相談してみると、的確な文章案が返ってくる可能性も高まります。つまり、初期の段階でどれだけLLMを“使える状態”にしておくかが、その後の使い勝手を左右するということです。

こうした考え方は、文章作成にLLMを取り入れようとする人にとって、大きなつまずきポイントでもあります。「書かせる」ことから始めるのではなく、「整える」ことにこそ使う──。その視点に立てば、LLMはたしかに営業ドキュメントづくりを“楽にする”可能性を持ったツールだと実感できるはずです。

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提案書・メール文面の工程を分解してみる

提案書や営業メールの作成にあたって、実際に手が動き出すまでの工程は、思っている以上に複雑です。単に「文章を書く」だけではなく、その前段にある思考や判断の積み重ねが成果を大きく左右します。

ここでは、一般的な提案書や営業メールの作成プロセスをあえて分解し、それぞれの工程でLLMがどこまで使えるのか、逆に使いづらいのはどこかを見ていきます。

たとえば、以下のような5つの工程に分けて考えることができます。

1.目的の確認と仮説立て

誰に、なぜこの提案をするのか。メールを送る目的は何か。相手の関心や期待をどう想定するか、といった“背景”を明らかにする工程です。

2.相手情報の整理と要素の抽出

相手企業の業種・事業内容・直近の動向・過去接点などをもとに、どの情報が関係しそうかを選び出す工程です。

3.構成案・骨子の検討

何から書き始め、何を軸に展開し、どう締めくくるか。話の流れや重点の組み立て方を考える工程です。

4.文案の作成

構成に沿って、実際に文章として表現する工程です。

5.修正・提出に向けた調整

語調の修正や伝わりにくい部分の見直し、トンマナの調整などを行い、提出可能な形に整える工程です。

このなかで、「4.文案の作成」だけをLLMに任せようとすると、期待通りのアウトプットが得られないことが少なくありません。背景が曖昧なままでは、どれほど高精度なモデルであっても軸のずれた文章を生成してしまいます。また、書き上がった文案を「ちょっと違う」と感じても、どこが違うのかを言語化できなければ、修正の指示すら難しくなります。

一方で、「1.目的の確認」や「2.相手情報の整理」、さらに「3.構成案の検討」の段階では、LLMが有効に働く場面があります。たとえば、自分の思考をLLMに言語化させたり、複数の構成案を比較したり、相手のWebサイトをもとに要約を作らせたりといった使い方は、整える工程の質とスピードを高める手段になり得ます。

「5.修正・提出」の工程でも、文案のトーンチェックや言い換え提案といった用途ならLLMの助けを借りることができますが、この段階では人間の判断が不可欠になるケースが多くなります。細部の表現やニュアンスは、読み手の期待や関係性によって微調整が求められるからです。

こうして分解してみると、「全部任せる」のではなく「どこに使えるかを見極める」ことが、LLM活用の出発点であることが見えてきます。

実際に“使える”のは、こんな場面

LLMを営業文書の作成に活用しようと考えたとき、最初にぶつかるのは「どんなふうに使えばいいのか分からない」という壁です。漠然と「文章を自動で書いてくれるはず」と期待して試してみたものの、出力された内容が薄かったり、的外れだったりして、結局使い物にならなかったという声も少なくありません。

こうした違和感は、「どの工程に使うか」を明確にしないまま利用してしまうことで生じやすくなります。前章で整理したように、文案を“書く前”の段階にこそLLMは活かしやすい性質があります。ここでは、実際に「使える」と感じられやすい具体的な場面をいくつか紹介します。

まず、相手企業に関する情報の整理は、比較的取り組みやすい工程です。たとえば、企業のWebサイトから主要事業や直近のニュースリリースを抜き出し、「この企業の最近の関心事は何か」といった問いをLLMに投げかけることで、自分の目では見落としがちな視点が得られることがあります。特定のページを読み込ませて要約させるだけでも、読み飛ばしや主観的なバイアスを減らす助けになります。

次に挙げられるのが、構成案の検討です。過去に自分が作成した提案書やメール文面の例を数本提示し、それらに共通する流れや構成のパターンを分析させることで、「型」としての構成が言語化されやすくなります。また、簡単な要点や目的を入力して「この内容を提案書にするとしたら、どういう流れが適切か」と聞いてみるだけでも、骨子を整える際のたたき台として有効です。

さらに、草案の壁打ちにも使い道があります。自分で書いた文案に対して、「分かりにくい点はどこか」「主張が弱い部分はあるか」と問いかけると、第三者の視点に近いフィードバックが得られる場合があります。文案を整える前の段階で自分の考えを吐き出し、LLMに整えてもらうことで、最終的なブラッシュアップ作業が楽になるというケースもあります。

いずれの場合も共通しているのは、「何を目的として使うか」が明確であればあるほど、LLMは役に立つという点です。曖昧な入力をすると曖昧な出力が返ってくる──これはLLMの特性として避けられませんが、逆に言えば、活用の精度は人間側の問いかけ次第で大きく変わります。

「出力された文章をそのまま使えるかどうか」ではなく、「考える助けになるかどうか」を基準に使う。そう割り切るだけでも、LLMとの距離感はぐっとつかみやすくなります。

人間の役割は「軸を決めること」

LLMの活用がうまくいくかどうかは、入力する情報の質と目的の明確さにかかっています。どれだけ高性能なモデルであっても、何を伝えたいのか、誰に向けた内容なのかが曖昧なままでは、的を射たアウトプットは得られません。

だからこそ、LLMに何かを“書かせる”以前に、人間の側でやるべきことが一つあります。それが、「軸を決めること」です。

ここでいう軸とは、伝えたい要点や提案の主旨だけでなく、「なぜその内容をこの相手に伝えるのか」「どこを強調すべきか」といった判断を含みます。たとえば、同じ商品・サービスの提案であっても、相手が抱える課題や関心の度合いによって、伝え方はまったく異なります。どの切り口で話を組み立てるかを決めるのは、LLMではなく人間にしかできない役割です。

軸が定まっていない状態でLLMを使おうとすると、曖昧な出力が返ってきたり、かえって判断に迷ったりすることがよくあります。「このくらい伝わるだろう」と思って曖昧なまま指示を出してしまうと、見当違いの文章が出てきて、「やはり使えない」と感じてしまう原因になります。

逆に、軸さえしっかり定まっていれば、LLMは非常に有効な補助になります。たとえば、「この相手にはスピード感を重視して伝えたい」「この提案は、費用対効果よりも導入後の安心感がカギだ」といった意図を明示できれば、それをもとに構成案を組み立てさせたり、表現を調整させたりすることができます。人間が判断すべきのは“何を言うか”であり、LLMに任せるのは“どう表現するか”の一部にすぎません。

実務のなかでLLMが活きるのは、「判断の代行者」ではなく「選択肢を広げる相手」として使ったときです。複数の表現案を出してもらい、その中から軸に合ったものを選び取る。あるいは、軸に沿った構成になっているかを確認するための壁打ちに使う。そうした使い方であれば、LLMは一貫性を保ちつつ作業の手間を軽減してくれます。

営業ドキュメントづくりは、相手と状況によって一つとして同じものはありません。そのなかで何を中心に据えるのか──軸を決める力こそが、人間にしか担えない部分であり、LLMを活かすための前提となる視点です。

まとめ ―「任せる」ではなく「使いどころを見つける」

提案書や営業メールのように、相手に合わせて文脈を調整する文書は、単なる定型文とは異なり、考える力と判断が求められる仕事です。だからこそ、「LLMに任せる」という発想でそのまま置き換えようとすると、思うように使いこなせず、期待外れに終わることがあります。

しかし、視点を少し変えて、「LLMをどこで使えるか」を工程ごとに見ていくと、活用の可能性は確実に存在します。情報を整理する、構成を組み立てる、草案の内容を検証する――こうした“書く前の工程”では、むしろ人間ひとりで進めるよりも、LLMを壁打ちの相手として活用するほうが速く、広く、深く考えを巡らせることができます。

また、最終的な文案に落とし込む段階でも、複数の言い回しを出させて比較したり、トーンの調整を試みたりといった形で、補助的に使うことは十分に現実的です。ただし、その精度や方向性を支えるのは、あくまで人間が決めた「軸」です。そこが曖昧なままでは、どれだけLLMを使っても期待通りには動いてくれません。

「全部任せる」「まったく使わない」といった極端な構えではなく、まずは使いどころを見つける。その工程だけでもLLMに補助を頼めば、作業負荷は確実に軽減されますし、考えること自体の質も上がります。

LLMは魔法のツールではありませんが、実務のなかに入り込ませる工夫次第で、たしかに“営業が少し楽になる”ことはある――それが、現時点での結論です。今すぐ大きく変える必要はなく、まずは一工程から。使いどころを見つけることが、最初の一歩になります。

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