2025-10-15

数字の外にあるヒント ― 定性情報を手がかりに考えるマーケティング

BtoB 営業・マーケティング コラム

マーケティングの現場では、数字で示せる成果が重視されがちです。しかし、顧客との関係や印象、会話の中のニュアンスといった「数値化できない接点」にこそ、意思決定のヒントが隠れていることがあります。

この記事では、定性情報を軽視せずに活かすための視点を整理し、データ偏重になりすぎないマーケティングの考え方を紹介します。

「見えない情報」がもたらす差

マーケティングの現場では、数値で可視化された情報が最も信頼されやすい傾向があります。クリック率や来訪者数、成約率といった指標は比較や報告に便利で、組織の共通言語としても機能します。しかし、その裏で、数字に表れない「見えない情報」が置き去りにされていることがあります。

たとえば、顧客がなぜ資料請求をやめたのか、なぜ展示会のブースで足を止めなかったのか――。数値としては「減少」という結果しか残りませんが、その理由は行動データだけでは説明しきれません。実際には、担当者の言葉の選び方、タイミング、会話の空気といった小さな要素が、決断を左右していることが少なくないのです。

こうした情報は、ログにもレポートにも残りにくく、表計算ソフトでは扱いづらい。だからこそ、「扱えない情報」として見過ごされがちです。しかし、現場で顧客と接している担当者ほど、その“空気の変化”を敏感に感じ取っています。そこには、定量データだけでは掴めない、顧客理解のヒントが潜んでいます。

一方で、見えない情報を扱うには難しさも伴います。個人の感覚や主観に依存しやすく、共有の仕方を誤ると「根拠のない話」として片づけられてしまうこともあります。その結果、せっかくの気づきが組織の知として残らず、次の施策に生かされないまま埋もれてしまう。これが、数字の裏側で起きている静かな損失です。

数値化できない情報を排除することは、判断材料を減らすことと同義です。たとえ曖昧でも、そこに意味を見いだす姿勢があれば、マーケティングの精度は確実に変わっていきます。重要なのは、「測れないものを測ろうとする」のではなく、「測れないものが示していることに気づく」こと。その一歩が、他社とのわずかな差を生み出す起点になります。

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定性情報を拾う“構え”を持つ

定性情報を活かす第一歩は、それを「拾おうとする姿勢」を持つことです。

データ分析の仕組みが整うほど、数値化できる情報だけが報告や議論の材料として優先されがちになります。しかし、顧客や市場の変化は、必ずしも数値の変化として最初に現れるわけではありません。むしろ、現場で感じる違和感や、やり取りの中の微妙な反応として先に現れることが多いのです。

こうした小さな兆しを見逃さないためには、定性情報を“精度の低いデータ”として扱うのではなく、“深度のある観察”として捉える必要があります。言葉にしづらい気づきを「データではないから」と切り捨てるのではなく、仮説を立てる素材として扱う。そこから次の問いが生まれ、やがて定量的な検証につながっていきます。

たとえば、営業やカスタマーサポートの現場で得られる顧客の声は、そのままでは散発的で体系立てにくいものです。けれども、それらを定期的に共有する場を設けることで、チーム全体の感度をそろえることができます。重要なのは、正確な記録ではなく「何を感じたか」を共有できる環境です。そこから、数字には表れない課題や機会が浮かび上がってきます。

また、定性情報を拾ううえで欠かせないのが、日々の記録の習慣化です。商談後のメモ、ミーティング中の発言、資料に書き込まれた小さなコメント――これらは後から振り返ると、方向性を決める重要なヒントになることがあります。形式ばったレポートよりも、その瞬間に感じた印象を残しておく方が価値を持つ場合もあるのです。

定性情報は、取り扱い方ひとつで「主観的な感想」にも「洞察の原石」にもなります。その分岐点を決めるのは、情報の精度ではなく、受け手の姿勢です。あいまいなものを排除せずに、むしろそこに含まれる意味を掘り下げようとする――その構えを持てるかどうかが、組織のマーケティング力を左右します。

データと感覚をつなぐ思考法

定性情報を活かす上で重要なのは、数字と感覚を切り離さずに扱うことです。データは事実を示しますが、その背景にある「なぜ」は多くの場合、数字の中には書かれていません。そこを補うのが、人の観察や経験によって得られる定性情報です。

分析結果を見たとき、つい「どの施策が成功したか」「どのチャネルが効率的か」と結果だけに目を向けがちです。しかし、本当に知るべきなのは「なぜその数字になったのか」という理由の部分です。たとえば、資料請求数が増えたとしても、その背後に「どんな期待感が高まったのか」「どんな不安が解消されたのか」という感情の変化があるはずです。その変化を読み取る視点を持つことで、数字の意味がまったく違って見えてきます。

感覚的な情報を軽視しないためには、「数値を読む前に背景を想像する」「数値を読んだあとに背景を検証する」という二つの動きを意識するとよいでしょう。前者は仮説づくり、後者は検証です。この往復があることで、分析が“結果の整理”ではなく“理解の深化”に変わります。

また、定性情報と定量情報は、どちらかが主でどちらかが従という関係ではありません。むしろ、両者は補い合う関係にあります。数字が示す傾向を感覚で裏づけたり、感覚的な違和感を数字で確かめたりする。その行き来を繰り返す中で、仮説の精度が上がり、顧客や市場に対する洞察が磨かれていきます。

そして何より大切なのは、データの先に「人」を見失わないことです。数値の増減に一喜一憂するよりも、その裏にある動機や心理の変化に目を向ける。そこに、次の一手を考えるための本質的な手がかりがあります。マーケティングは、データを扱う活動であると同時に、人を理解する営みでもあります。定性情報を活かすとは、その両面を往復する思考を持つことにほかなりません。

定性情報を活かす仕組みづくり

定性情報は、個人の気づきや感覚として得られるものが多いため、放っておくと属人的にとどまりやすい傾向があります。どれほど鋭い観察であっても、それが共有されなければ組織の知としては積み上がりません。重要なのは、そうした情報を「偶然の発見」に終わらせず、継続的に活かす仕組みを持つことです。

まず求められるのは、気づきを共有できる場の整備です。報告会や会議は数字中心になりがちですが、その裏にある「なぜこうなったのか」「顧客はどう感じていたのか」といった定性的なやり取りを意識的に取り上げるだけでも、議論の深さが変わります。発言の裏付けを求めすぎず、感覚的な話題を一度受け止める姿勢があるだけで、情報の流れは大きく変わります。

また、形式にとらわれすぎないことも重要です。定性情報は、整ったレポートよりも、現場で交わされた一言や短いメモに宿ることがあります。完璧な記録よりも、気づいた瞬間の印象を残すことを優先する。その小さな断片が後に意味を持つ可能性があるからです。形式化を急ぐと、定性情報の持つ生のニュアンスが薄れてしまうこともあります。

組織として扱う際には、「共有」「蓄積」「活用」の三つを意識するとよいでしょう。まず共有では、部署をまたいだ情報交換の場を設け、感覚的な気づきをためらわず話せる雰囲気をつくる。次に蓄積では、定性情報を整理せずに残す仕組みを持つこと。メモや発言を完全に整えるよりも、素材として保存しておくことが後の活用につながります。そして活用では、定性情報を「提案の裏づけ」や「顧客理解の補足」として位置づけ、次のアクションの判断材料に組み込むことが大切です。

もう一つ見落とされがちな点として、情報の扱い方を個人任せにしないということがあります。経験豊富な担当者ほど感覚的な判断に長けていますが、それを他者に伝える言葉に変えるのは容易ではありません。定性情報の価値を全員が理解し、同じフォーマットや共通の言語で共有できるようにすることが、組織的な再現性を生みます。

定性情報の活用とは、特別な分析手法を導入することではありません。むしろ、日常の中で見過ごされていた“気づき”を拾い上げ、他者と共有し、次の行動に結びつけることの積み重ねです。仕組みづくりの目的は、情報を整理することではなく、感覚を意思決定に活かす流れをつくること。その流れが定着すれば、組織の判断はより柔軟で、現実に即したものへと近づいていきます。

まとめ

数値で測れる情報は、判断の基準として明快です。しかし、そこに表れない“接点”にもまた、多くのヒントが潜んでいます。顧客との会話の温度、反応の速さ、言葉の選び方――それらは数字にはならなくても、確実に相手の印象や行動を左右しています。

定性情報を扱うということは、不確実さを受け入れることでもあります。あいまいなものを排除するのではなく、その中に含まれる兆しや背景を読み取ろうとする。その姿勢こそが、表面的な数値分析だけでは見落としてしまう機会を見つけ出す力になります。

また、定性情報を活かす取り組みは、一人の感覚に頼るものではありません。気づきを共有し、他者の視点と重ねていくことで、主観的な情報が組織の知へと変わります。形式にとらわれずに話せる場を持つこと、短いメモでも残しておくこと――そうした小さな習慣が、やがて大きな差を生む基盤になります。

マーケティングは、数値を扱う仕事であると同時に、人の行動を理解する仕事です。数字が示す結果の裏にある「なぜ」を問い続けること。そこにこそ、次の戦略を導くための発想があります。定性情報を「測れないもの」として遠ざけるのではなく、「考えるための材料」として受け入れる。その姿勢が、これからのマーケティングを支える本当の強みになるはずです。

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