2025-05-16

実名データが、営業とマーケの共通言語になる ― 分断を越える情報のつなぎ方

BtoB 営業・マーケティング コラム

営業とマーケティングは、企業活動において切り離せない存在といわれながら、いまだに“分断”という言葉がつきまといます。どちらも顧客に向き合う役割である一方で、見ているものや評価指標、使っている言葉が異なることで、連携が空回りすることも少なくありません。ただ、それを解消するために必要なのは、複雑なフレームワークや新しいツールの導入とは限りません。両者のあいだに「共通言語」が生まれるだけでも、連携のあり方は大きく変わってきます。

その共通言語の出発点として、いま注目したいのが「実名データ」です。抽象的なターゲット像や属性ではなく、「誰に向けて、何を行ったか」が個人名単位で共有できるようになると、部門間のコミュニケーションにも変化が生まれます。本稿では、実名ベースのデータが、営業とマーケティングのあいだでどのように“通訳”の役割を果たすのかを考えていきます。

営業とマーケのすれ違いは、言葉の不一致から始まる

営業とマーケティングが連携しづらい理由はさまざまですが、根本にあるのは「同じ言葉を使っていても、その中身が違う」という問題です。たとえば「ターゲット」という言葉を例にとっても、マーケ側は属性やセグメントを起点に話すのに対し、営業側は個別の人物像を思い浮かべながら話すことが少なくありません。この“認識のズレ”が、部門間の会話をかみ合わせにくくしている原因のひとつです。

マーケティングでは、施策の設計上どうしても抽象度の高い分類が使われます。業種、従業員規模、年商レンジ、役職層など、数値やラベルで分類されたグループをターゲットとして設定するのは合理的な方法です。一方、営業が日々向き合っているのは、その分類の中にいる“個人”です。たとえば「製造業の課長職」と一括りにされていても、実際には工場長に近い現場寄りの課長もいれば、経営企画的な目線を持つ課長もいます。営業にとっては、その人がどんな背景で、どんな意思決定をしそうかという“感触”のほうが重要です。

このギャップは、日々の情報共有や報告の中でも表面化します。マーケ側が「今回の施策はターゲット属性にリーチできた」と言っても、営業にとっては「その中に商談につながる人がいるかどうか」のほうが気になります。逆に、営業が「●●さんとは良い感触だった」と報告しても、マーケ側からは「その人は何者か」「どういう属性の人か」が把握できず、反応に困ることもあります。

つまり、表向きは同じ方向を向いているようで、実際には見ているものの焦点がずれているのです。このズレは、KPIの違いや評価軸の差だけでなく、「どの単位で話しているのか」が食い違っていることにも起因しています。会社単位なのか、部門単位なのか、個人単位なのか。この粒度の不一致が、話し合いを噛み合わせにくくし、連携の足を引っぱっているのです。

こうした問題は、両者のどちらかが正しいという話ではありません。立場が違えば視点が違うのは当然であり、それ自体はむしろ健全ともいえます。ただ、話が通じにくくなる要因がそこにあるのだとすれば、それを埋める何らかの“共通の足場”を見つける必要があります。そして、その足場となるもののひとつが「実名データ」なのです。

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「実名ベース」で初めて見える、共通の前提

営業とマーケティングの会話がすれ違う背景には、「誰について話しているのか」が曖昧なまま議論が進んでしまうという構造的な問題があります。属性や企業情報といった抽象的な情報だけでは、どれだけ言葉を尽くしても意思疎通に限界があります。そこで重要になるのが、「実名ベースの情報」を起点にするという視点です。

たとえば、「製造業の課長職」と言われたときに、マーケ側は分類上の“枠”としてその言葉を捉えますが、営業側は「A社の購買部・鈴木課長」といった、具体的な人物に頭が切り替わっていることがよくあります。どちらの視点も正しいのですが、実際の業務で連携を取ろうとしたとき、匿名的な属性では話が止まりがちです。共通の名前が出て初めて、「ああ、あの人のことですね」と認識が一致します。

実名ベースでの情報共有は、営業とマーケの両方が前提を揃えるうえで非常に有効です。企業名や部署名ではなく、「どの部門の、誰か」という情報があるだけで、相手の行動や関心の履歴が具体的に思い浮かぶようになります。「この人はセミナーに来ていた」「資料請求後に電話したが応答がなかった」といった断片的な事実でも、名前と結びつけることで一貫したストーリーとして捉えられるようになります。

また、実名データには“変わりにくさ”という特性があります。属する会社がグループ再編されたり、業種分類が変わったりすることはあっても、「〇〇さん」という実名そのものが意味を変えることはありません。名前を軸に情報を集めていけば、部門をまたいでもブレずに議論を進めることができます。これにより、マーケティング施策の反応が営業活動とどうつながるのかを把握しやすくなり、相互の活動をひとつの線として見る視点が生まれます。

実名ベースの情報が揃うことで、営業とマーケは“誰の話をしているか”を曖昧にせずに会話できるようになります。抽象的なターゲット論ではなく、個別具体のアプローチに対して意見を交わせるようになるため、連携の精度も上がっていきます。つまり、共通言語とは必ずしも概念のすり合わせでだけはなく、「同じ名前を見ながら話す」ことからも生まれるのです。

精度の高い合意形成を支える「実名の一覧性」

営業とマーケティングが足並みを揃えようとする時、もっとも重要なのは「誰について、どう判断するか」という合意の土台です。しかし、属性ベースのデータや抽象的なターゲット設定では、判断のよりどころが部門ごとにズレてしまい、話が食い違うことも少なくありません。そこに「実名の一覧」が加わることで、判断の単位が具体的になり、共有される情報の質が一段階上がります。

実名ベースのリストが手元にあると、「この人は次回のウェビナーに招待する」「この人は以前、商談まで進んだが失注している」といった話が、共通の文脈で展開できるようになります。誰をどのステータスに分類するか、どのタイミングで再アプローチするかといった細かな判断も、名前をもとに確認できるため、抽象的な議論に陥ることが減ります。

ここで重要なのは、実名の一覧が“可視化の力”を持つという点です。部門間で目にしているリストが違えば、それぞれが「いま注目すべき対象」が食い違うのは当然です。同じリストを見ながら話すことで、営業とマーケがそれぞれのアクションを説明しやすくなり、相手の動きに納得しやすくなります。施策をどう評価するか、どこに重点を置くかという判断も、個人名ベースの一覧があることで曖昧さが減り、議論が前に進みやすくなります。

また、名前が記されたリストには、担当者個人への“記憶”や“感触”が自然と紐づいていきます。「あの人は返信は少ないけれど、資料はよく読んでいる」「会話はできていないが、セミナーには毎回出ている」といった情報は、定量的には表しにくいものの、営業現場では極めて重要な要素です。こうした情報も、実名があることで初めて共有可能になります。

そして何より、実名の一覧があることで、営業とマーケが“同じ対象を扱っている”という意識を持ちやすくなります。部門ごとに別々のKPIを追いかけていても、個人単位での判断が共有できていれば、「この人は今、誰が動いているのか」「どこまで接点があるのか」が見えるようになります。その可視性が、日々の連携を自然なものに変えていきます。

営業を“担当者個人”に引き戻す視点

多くの営業活動では、企業や部署を対象とする戦略が組まれがちです。たとえば「A社の購買部を攻めよう」「B社の経営層に接点を持とう」といったアプローチがその典型です。しかし、実際に意思決定に関わるのは、どこまでいっても“個人”です。企業名や部署名の背後には、固有の立場や考え方、タイミングを持った担当者がいます。営業の実態は、この個人との関係構築に他なりません。

にもかかわらず、組織単位で管理されたリストや抽象的なターゲティングばかりが重視されると、営業の視点が“個”から離れてしまいます。そこに「実名ベース」の情報を取り入れることで、営業活動が本来向き合うべき相手――担当者個人――に引き戻されていきます。どこの会社か、どんな業種かという情報よりも、「いま、誰がどういう反応を示しているのか」のほうがはるかに営業には重要です。

また、実名があることで記録の意味合いも変わります。「誰と、いつ、どのようなやりとりがあったか」という情報が、単なる活動履歴ではなく、相手の関心やスタンスを探る手がかりになっていきます。名刺交換、問い合わせ、セミナー参加といった行動の一つひとつが、個人名にひもづいて記録されることで、見えなかった関係性の“輪郭”が浮かび上がります。

こうした情報は、マーケティング視点から見ても有用です。個人レベルでどのような反応があったかを把握できれば、施策の精度を高めるうえで重要なヒントになります。たとえば、資料請求やクリック履歴のような定量データだけでなく、「特定の担当者が会話に前向きだった」といった定性的な情報が加わることで、判断の幅が広がります。

さらに、実名を軸に情報が集まると、単発のやりとりが“線”としてつながっていきます。営業メンバーが変わっても、その人物についての接点履歴が蓄積されていれば、次の担当者がゼロから関係を築く必要はありません。これは、顧客との関係を属人化させないうえでも大きな意味を持ちます。

実名ベースの視点は、営業活動をより精緻に、かつ柔軟にします。誰に・なぜ・いまアプローチすべきかという問いに対して、表面的な条件ではなく、相手の“個別事情”を踏まえた答えが出せるようになるのです。それは、営業を本来の姿――一対一の対話に軸足を置いた活動――に引き戻すということでもあります。

リストの運用が、部門の連携レベルを底上げする

営業とマーケティングの連携について語られるとき、「ターゲットの共有」や「施策のすり合わせ」が強調されることが多くあります。もちろん、それらも一定の効果はありますが、連携が一過性のものになってしまうことも少なくありません。関係を継続的なものにしていくには、単なる情報の共有にとどまらず、その情報を“どう運用するか”にまで踏み込むことが不可欠です。

実名ベースのリストを使った運用は、まさにその突破口になります。誰に、どのような接点を持ち、いま何が起きているかという情報を、営業とマーケが同じ目線で管理する。その過程で「この名前は営業から見てどのような優先度か」「マーケから見て、どのような反応履歴があるか」といった相互の見解が交わされるようになります。単なる“報告”や“引き継ぎ”ではなく、相手の活動を理解しながら自分の動きを調整するという、能動的な連携が起こりやすくなります。

さらに、実名リストの運用には“責任感”が伴います。抽象的なターゲット群とは違い、実名のリストは「この人について何か動きがあったか」がはっきりと見えるため、放置が目につきやすくなります。営業であれば、進捗が止まっている相手に対してアクションを検討しやすくなりますし、マーケであればフォローの必要性や情報提供のタイミングを把握しやすくなります。このように、情報の透明性が行動を促すという効果も見逃せません。

また、CRMやMAといったシステムに情報が蓄積されていても、実際の現場で活用されないまま埋もれてしまうことも多いものです。しかし、実名ベースで整理されたリストが日々のミーティングや活動管理の場に持ち込まれれば、システムとは別の“現場の共通言語”として機能しはじめます。ツールの使い方を覚えるよりも、「この人には今どう対応すべきか」を考えるほうが、現場には即した行動につながりやすいのです。

このように、実名リストの運用は、情報を蓄積すること以上に、それをどう扱うかという行動レベルでの連携を引き出します。結果として、営業とマーケの間にある“組織的な隔たり”は小さくなり、担当者同士の動きがつながりやすくなっていきます。共通のリストを持ち、それを日々の業務に組み込む――この継続的な運用が、連携のベースラインを確実に押し上げていくのです。

まとめ

営業とマーケティングの連携は、理屈としては多くの企業で語られています。目指すゴールが共通である以上、協力し合うべきという認識自体は浸透しているはずです。それでもなお連携が実行段階でつまずくのは、「何を共有するか」「どの粒度で話すか」といった部分で、現場の実感が伴っていないからではないでしょうか。

その点で、「実名データ」を共通の前提とする考え方には現実的な強みがあります。役割や指標が異なる営業とマーケでも、「同じ名前を見て話す」ことで自然と話がかみ合い、無理なく共通言語が生まれます。誰が、どのような経緯で接点を持ち、現在どのような状態にあるのか――そうした情報が個人名にひもづいているからこそ、両部門が同じ地図の上で動けるようになります。

また、実名ベースのリストがあることで、日々の活動が分断されにくくなります。担当者ごとの接点履歴が見える化されていれば、過去のやりとりや現在の立ち位置をもとに、次のアクションを具体的に考えられるようになります。これは属人化の防止にもつながり、情報が担当者間を越えて組織的に活用されていく土壌にもなります。

もちろん、実名データの運用には一定の労力も伴いますが、それ以上に得られるメリットは大きいといえるでしょう。属する会社や属性ではなく、「あの人」と呼べる単位で情報を扱うことで、営業とマーケティングの関係性は一段と実務的になります。肩書きではなく名前を起点に話せるようになれば、両者の連携は、理念やスローガンではなく日常の業務のなかで現実のものとなっていくはずです。

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