2025-06-18
LLMを使った「営業戦略ブレスト」――アイデア出し・仮説検証の新しい回し方
BtoB 営業・マーケティング コラム
営業戦略を考える場面では、どうしても視点や発想が似通ってしまいがちです。メンバーそれぞれが経験や勘に基づいてアイデアを出し合っても、思い込みや固定観念から抜け出すのは簡単ではありません。こうした課題を前に、近年「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれるAIの活用に注目が集まっています。
営業現場でのブレインストーミングにLLMを取り入れることで、従来とは異なる視点や発想を加えることができるのではないか――そんな新しい選択肢が現実味を帯びてきました。
この記事では、営業戦略のアイデア出しや仮説検証のプロセスにLLMを活用することで、どのような変化が期待できるのかを考えます。これからの営業戦略立案に向けた“新しい回し方”として、LLMがもたらす可能性を整理してみたいと思います。
営業戦略ブレストの「今」と課題
営業戦略を立てる場面では、メンバーが集まり自由にアイデアを出し合うブレインストーミングがよく行われます。組織の知恵や現場の経験を持ち寄り、多角的な発想を生み出すための手法として、多くの現場で重視されています。
一方で、実際のブレストではいくつかの壁を感じることもあります。たとえば、参加者の役割や経験値によって意見が偏る場合や、過去の経験や業界の慣習に影響されて、斬新な発想が出にくいことも少なくないでしょう。また、立場や役割を気にして本音を言いづらい空気が生まれ、率直な意見交換がしづらくなることもあります。
さらに、日々の業務に追われる中で時間が十分に確保できなかったり、ブレストそのものが「一応やる」という形になったりすることも起こりえます。こうした場合、現状の延長線上にあるアイデアが中心となり、新しい切り口が生まれにくくなる傾向があります。
このように、営業戦略のブレストは自由な発想を促すためのものですが、議論の枠組みが広がりきらず、発想が似通ってしまう場合もあります。より多様な視点や新しい切り口を引き出すためには、工夫や新しい刺激が求められる場面もあると言えるでしょう。

LLMで広がる「ブレスト」の選択肢
営業戦略を考える場面において、大規模言語モデル(LLM)の存在感が徐々に高まっています。これまでのブレストでは、メンバー各自の知識や経験、情報収集力に頼る部分が大きく、人間ならではの視点や現場感覚が強みとなっていました。しかし、同じメンバーで何度も話し合いを重ねるうちに、発想が似通ってくることもあります。
ここにLLMを取り入れることで、ブレストの選択肢は大きく広がります。たとえば、「新しい市場のニーズをどう発掘するか」「これまで注目してこなかった業界動向にどんな兆しがあるか」など、普段の思考パターンとは異なる視点でのアイデアや問いかけが得られるのが特徴です。LLMは膨大な情報に基づいて関連する切り口やヒントを提示してくれるため、普段の議論では浮かびにくい視点や気付きが生まれることも期待できます。
また、LLMは先入観や固定観念にとらわれず、中立的にアイデアを提案できる点もブレストにとって有効です。特定の立場や過去の経験に左右されることなく、多様な方向性の提案を並べることができるため、参加メンバーが「一度リセットして考えてみる」きっかけにもなります。
さらに、「なぜその発想なのか」「その仮説の根拠は何か」といった追加の問いを投げかけることで、議論の深掘りや仮説の広がりにもつなげやすくなります。
LLMを活用したブレストは、あくまで“人が考えること”を補助するものですが、いつもの議論の枠組みを一歩広げたいときや、新しいヒントが欲しい場面では、大きな力を発揮する選択肢になり得ます。
仮説検証のプロセスにLLMをどう組み込むか
営業戦略の立案やアイデア出しにおいては、「仮説を立て、それを検証していく」というプロセスが重要です。しかし、現場では時間やリソースの制約もあり、どうしても同じような仮説に落ち着きがちだったり、検証の幅が広がらないという課題も見受けられます。
LLMをこのプロセスに取り入れることで、仮説検証の“回し方”に新しい選択肢が生まれます。たとえば、ブレストで出たアイデアをLLMに投げかけることで、その場で異なる角度からの補足や追加の仮説を引き出すことができます。自分たちだけでは思いつかなかった切り口や、過去の事例・論点を参考にしたアドバイスも得やすくなります。
また、LLMは一つの仮説に対して複数の反証や代替案を提示することもできるため、短時間で多様な選択肢を検討することが可能です。たとえば「この市場への新規参入は有効か」といった問いに対し、LLMは想定されるリスクや、別のアプローチ案も併せて提示してくれます。これにより、議論が一方向に偏ることを防ぎ、柔軟な仮説の見直しや再構築がしやすくなります。
さらに、仮説をLLMにぶつけてみることで、その仮説に潜む前提や抜け漏れにも気付きやすくなります。「なぜその前提なのか」「別の視点はないか」といった問いを重ねることで、検証プロセスがより深く、広がりのあるものになっていきます。
このように、LLMを活用することで仮説検証のプロセスがよりスピーディーかつ多角的になり、思考の幅が広がる可能性があります。結果として、これまで見落としがちだった新しいヒントや選択肢にたどり着きやすくなるでしょう。
営業現場でLLMをブレストに使うポイント
LLMを営業戦略ブレストに取り入れる際には、いくつか意識しておきたいポイントがあります。
まず重要なのは、「AIに任せきりにしない」という姿勢です。LLMは幅広い知見や多様な発想を提示してくれますが、あくまで“参考意見”のひとつと捉えることが大切です。提示されたアイデアをそのまま採用するのではなく、自分たちの状況や目的に照らし合わせて、取捨選択やアレンジを加えることが求められます。
次に、LLMへの問いかけ方も工夫したいポイントです。抽象的な質問だけでなく、具体的な状況や目的、検討している課題などを補足することで、より実務に役立つヒントや仮説を得やすくなります。たとえば「新規開拓で壁にぶつかっている」とだけ投げかけるのではなく、「〇〇業界の新規開拓で現状課題となっている点は何か」「自社の強みを生かした提案の切り口は」など、少し踏み込んだ問いを設定することで、アウトプットの質も高まります。
また、LLMの提案をそのまま会議の結論とせず、あえてグループで検討したり、再度LLMに問い直したりするプロセスを組み込むのも効果的です。こうした「人とAIのラリー」を繰り返すことで、メンバーそれぞれの経験とAIの提案が交わり、新しい気付きやアイデアが生まれやすくなります。
加えて、情報の取り扱いや守秘義務についても注意が必要です。ブレストの過程で社内の機密事項や未公開情報を扱う場合は、入力する内容や利用するプラットフォームの管理体制にも配慮することが大切です。
LLMを営業戦略ブレストに活用する際は、「AIに期待しすぎず、上手に巻き込む」「問いかけ方にひと工夫を加える」「人とAIの意見を組み合わせて検討する」など、いくつかのポイントを意識することで、より実りのある議論につなげやすくなります。
LLM活用時代の“人”の役割
LLMを営業戦略のブレストに活用する動きが広がる中で、改めて“人”の役割について考える機会も増えています。AIがアイデアや仮説を大量に生み出せる時代だからこそ、人ならではの視点や判断がより重要になってきます。
まず、LLMはあくまで過去のデータやパターンに基づいた提案が得意です。そのため、現場特有の事情や最新の感覚、これからの変化を予測する力は、やはり人が担うべき部分と言えます。また、LLMの出力を鵜呑みにするのではなく、「本当に自社に合っているか」「実現可能性はあるか」といった現実的な見極めを行うのも人の役割です。
さらに、LLMがもたらす多様な提案の中から、組織やチームにとって意味のあるヒントを見つけ出し、アレンジしたり、具体的な行動につなげたりするのも人の手に委ねられます。複数のアイデアを組み合わせて新しい仮説を立てたり、メンバー同士で意見をぶつけ合いながら本質的な課題を掘り下げたりする場面では、コミュニケーションや意思決定の力が欠かせません。
また、AIによる自動化や効率化が進むほど、「なぜその戦略を選ぶのか」「何を大事にして進めていくのか」といった価値観や方向性の判断も、これまで以上に問われるようになります。人だからこそ感じられる現場の“違和感”や、新たな挑戦への意欲が、組織の進化を後押しする原動力にもなります。
LLMの活用が当たり前になるほど、戦略立案やブレストの現場で「人が考えること」「人が選ぶこと」の意味は、これまで以上に大きくなっていくはずです。
まとめ
営業戦略のアイデア出しや仮説検証のプロセスにLLMを取り入れることで、これまで以上に多様な視点や切り口が議論の場に持ち込めるようになりました。ブレストの枠組みを広げたいときや、普段とは異なる発想を求めたいとき、LLMの力は有効な選択肢となり得ます。
一方で、AIの提案をどう生かすか、どこまで自社や現場の実情にあわせてアレンジするかは、やはり“人”の役割です。LLMから得られる多様な意見やヒントを土台に、現場ならではの経験や判断を重ねていくことで、より実践的な営業戦略が生まれていくはずです。
LLMの技術や機能は今後も進化を続けていくと考えられます。営業戦略ブレストの現場でも、こうした新しいツールや発想法を柔軟に取り入れ、組織としての「考える力」をさらに高めていくことが、これからの大きな可能性となるでしょう。
