2022-12-27

「良い製品なのに売れない」を打破するバリュープロポジションの定め方

BtoB 営業・マーケティング コラム

自社の製品をつまらないものだと思っているマーケターや営業パーソンはいません。しかし「良い製品なのになぜか売れない」という悩みを、多くの営業組織が抱えています。この状況を突破するには何が必要なのでしょうか?

見込み客に製品の良さを伝えるコンテンツが弱いのか、営業パーソンが製品の強みを理解していないのか、あるいはターゲットの選定が甘いのか。理由はいろいろ考えられますが、これらの理由の根底にあるのは、顧客あるいは見込み客に「価値の提案」(バリュープロポジション)が出来ていないということです。

製品の機能やサービスの強みを「売る側」から見ているかぎりは「良い製品なのになぜか売れない」という状況を突破することはできません。この記事では、自社の強みを徹底的に顧客の側から見直すバリュープロポジションの定め方について解説しています。ぜひ参考にしてくてください。

バリュープロポジションとは

バリュープロポジションとはValue(価値)のProposition(提案)で、自社の製品やサービスにどんな価値があるかを、顧客に訴求することをいいます。

「良い製品なのになぜか売れない」のは、このプロポーズの仕方に問題がある可能性があります。

高学歴で高収入、身長も高いハイスペックな男性もプロポーズに失敗することがあります。その理由は、お相手が結婚に求めていた価値を見誤っていたからではないでしょうか。

ビジネスにおいても、企業と顧客の良い関係を築く鍵は、相手に刺さる「バリュープロポジョン」の定め方にあります。

提供できる価値から見た顧客、自社、競合

マーケティングでは、バリュープロポジョンを「顧客が求めており、自社は提供できるが、競合相手は提供できない価値の提案」と定義します。

バリュープロポジョンの定義

※図表引用元「ITmedia エンタープライズ」https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1104/20/news007.html

上図で、「自社が提供できる価値」と「顧客が望んでいる価値」が重なっていて、かつ「競合が提供できる価値」から外れる赤のエリアが、もっとも注力すべきターゲットとなるバリュープロポジョンです。

この図を見て、有名なマーケティングのフレームワークの3C分析を思い出す人も多いでしょう。Customer(顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)を分析することで、事業の進むべき方向が見えてくる、という考え方です。

3Cを「提供できる(提供してほしい)価値」という視点から分析するのがバリュープロポジションです。しかし、3C分析もバリュープロポジションも、理屈はなるほどと思わせる説得力がありますが、教科書的理解以上に「実務でやってみて成果に結びついた」と実感しているマーケターは少ないのが実情ではないでしょうか。

難しいのは「顧客が求める価値」の見極め

これらの思考法(フレームワーク)がリアルな成果になかなか結び付かないのは、Customerの分析、顧客が求めている価値の分析が、他の2つに比べて格段に難しいからです。

顧客が求める価値を「顧客一般」から導き出そうとすると、実際の役に立つ提案(プロポジション)は生まれません。

重要なのは、ここでいう「顧客」は「個客」だということです。とくにBtoBでは、顧客A、B、C、Dをひとまとめにしてバリュープロポジョンを想定しても、ピントがぼけてしまいます。「個客A」に絞って自社が提供できる価値を定めることが「良い製品なのになぜか売れない」を打破する鍵になります。

オンライン施策では難しい役職層にアプローチ!|ターゲットリスト総合ページ

「顧客が望んでいる価値」とは

「顧客が望んでいる価値」を察知するには、いわゆるターゲットセグメントでは不十分で、一つひとつの顧客の仕事の中味に分け入って探す必要があります。

属性でセグメントするだけでは「個客」が望んでいる価値は見えてこない

「セグメントされたターゲット」とよく言いますが、業種や規模などの属性をいくら細かくセグメントしても「個客」には到達しません。どこから見ても同じように見える中堅どころの製造業にも、独自の仕事の流れや流儀があり、特有の悩みや課題を抱えています。

腕のいいプレイボーイなら、何人かの女友達を十把ひとからげにして、同じような台詞で口説いたりはしません。一人ひとりの女性の個性を把握して、攻めどころ(弱いところ)を上手に突いてくるはずです。

もちろん、ターゲットセグメントにも重要な意味があり巧拙もありますが、価値の提供という視点では、できることは限られていると言うべきでしょう。

近年BtoB営業で注目されているアカウントベースドマーケティングは、まさに個客Aに向けてバリュープロポジョンをいかに定めるかの追及です。

アカウントベースドマーケティングについては下記の記事をご参照ください。

BtoB営業で有効な「アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)」を解説

「いちど作ったバリュープロポジションも賞味期限があるので、自社、競合、顧客の変化に応じて見直そう」と言われています。確かにその通りですが、そもそも「作り置きができないもの」と考える方が、実地の役に立つものになります。

顧客が求める価値は、自社製品の機能の特定部分ではない

顧客が求める価値を「自社の製品が提供できる価値のどの部分か」と考える切り分けの発想では、顧客が振り向いてくれるプロポーズ(提案)はできません。

顧客が反応するValueとは、製品のスペックや機能そのものではなく、顧客の企業活動全体の中での、製品がもたらすベネフィット(便利になる、楽になる)あるいは、ソリューション(ボトルネックやリスクの解消)です。

アカウント(特定の顧客企業)の「業務の流れ」を徹底的に観察、取材して、その企業がもっとも喜ぶことは何か、解放されたいと思っている痛みはどこにあるかを発見するのが、バリュープロポジションを定めるポイントになります。

バリュープロポジションから見た自社の強みと弱み

バリュープロポジションを定めるにあたっては、自社と顧客の他に「競合他社が提供できる価値」というもう1つのファクターがあります。

しかし、競合他社と比較するときに、企業規模や製品ラインナップ、サービス体制や価格を比較するだけでは、有効なバリュープロポジションに結びつきません。ここでも大切なのは、もう1つのファクター「顧客が求める価値」への配慮です。

強みと弱みは、顧客ニーズを起点にしないと分からない

強みも弱みも絶対的なものではなく、顧客が望む価値によって強みにも弱みにもなります。

例えば、プラスチック成型機械で金型の交換が短時間で済む製品は、多品目を製造している顧客にとっては大きな価値を持っていますが、単一製品を大量に生産する顧客にとっては、その高性能ゆえに高価格になっているとしたら、価値の低い製品です。

ソフトウェアでも同じで、出張予約・管理システムで海外の航空機や鉄道の予約も可能だという強みは、国内出張しかない企業にとっては価値にはなりません。

上記はたいへん分かりやすい話ですが、顧客が求めているのは機能と価格のバランスだけではありません。

顧客が真に求める価値とは「潜在的な課題の解決」である

本当に価値のある提案とは、顧客自身も明確には意識していない、企業の業績を圧迫しているボトルネックや業務の流れの中に潜んでいるリスクを気づかせてくれる提案やそのソリューションです。

顧客自身が気づいていない課題こそ有効な提案になる

近年爆発的に増えたのが、クラウドを通じて提供されるサブスクリプション型のSaaS(ソフトウェアサービス)です。そして、どのサービスも企業が抱える課題の「ソリューション」をうたっています。

機器もソフトウェアもプロダクトは成熟化して、提供側が強調するソリューションも、すでに顧客が意識している(気づいている)課題に対するソリューションなら、価格競争や納期競争から逃れられるバリュープロポジションにはなりにくくなっています。

成果に結びつく「価値の提案」をするには、顧客自身が気づいていない課題を察知して、そのソリューションを提案する必要があります。

顧客の潜在的な課題を察知するには「モノ売り」から「コト売り」への転換が必要

ここ数年BtoBの世界でも「モノ売りからコト売りへ」の営業戦略の転換が議論され、その方向にかじを切ろうとする企業が増えています。

「モノ売りからコト売りへ」とは、製品の「機能」を売るだけではなく、その製品によって顧客の喜びが増して、痛みが減る「体験」を売るという考え方です。

これもバリュープロポジションと同じで「言うは易く行うは難し」のテーマですが、顧客が望む価値の提案を成果の上がる営業の武器にするには、ぜひ必要な戦略転換かもしれません。

顧客が必要なもの、不足しているものを売るのではなく、必要性に気づかせるのが営業だというのは、遠回りのようでいちばん近い道である可能性があるからです。

モノ売りからコト売りへという考え方については、下記の記事をご参照ください。

BtoB営業における「モノ売りからコト売りへ」の転換に必要なものと、簡単ではない理由

まとめ

顧客が望んでいる価値で、競合が提供できないものを提案するバリュープロポジションは、たしかに重要な視点ですが、機能そのものでこのような差別化を図るのが困難な時代です。

そこで重要になるのが「顧客が望む価値の提案」を単なる機能の提案ではなく、顧客の業務全体の流れの中でボトルネックとなっていることやリスクとなっていることなど「潜在的な課題」のソリューション提案だといえます。

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