2025-05-22

営業とマーケティングの連携強化 ― 対立の要因と協力体制の構築方法

BtoB 営業・マーケティング コラム

営業とマーケティングの連携は、多くの組織でたびたび話題になります。どちらも顧客との関係づくりを担う重要な機能であるにもかかわらず、実際には「連携がうまくいかない」「責任の所在が曖昧」などの声があがる場面が少なくありません。営業は「質の低いリードばかり」と感じ、マーケティングは「せっかくの見込み客を追ってくれない」と不満を抱える―そんな構図に心当たりがある方も多いのではないでしょうか。

本来は同じ方向を向いているはずのこの2つの機能が、なぜ噛み合わなくなるのか。その背景には、単なる業務フローの違いではなく、考え方や時間感覚、成果の捉え方など、より深いところにある“ズレ”が影響しています。

この記事では、そうしたズレの構造を整理したうえで、営業とマーケティングが互いに納得感を持ちながら協力できる体制をどう築いていくかについて考えていきます。

連携を阻む「ズレ」はどこにあるか

営業とマーケティングの連携がうまくいかない背景には、複数の「ズレ」が存在します。単に人間関係が悪いとか、情報共有が足りないといった話ではなく、それぞれの立場から見えている景色や考え方に根本的な違いがあることが多いのです。

まず目につきやすいのが、成果指標のズレです。マーケティング部門では、獲得リード数やコンバージョン率などが評価対象になりがちです。一方で営業部門は、最終的な受注や売上に焦点を当てて行動しています。この違いは、どちらかが正しいという話ではなく、それぞれの役割と責任に基づく当然の傾向です。しかし、同じ「成果」という言葉を使っていても中身がまるで違うため、そこにズレが生じます。

次に、時間軸のズレも見逃せません。マーケティングは、半年後や1年後の成果を見据えて中長期の活動を計画します。対して営業は、今月・今四半期の目標達成が最優先です。この差が、施策に対する温度感の違いや、互いの動きに対する誤解を生む原因となります。

さらに、顧客像のズレもあります。マーケティングでは、ペルソナやターゲットセグメントを定義し、広くアプローチするための設計を行いますが、営業が日々向き合っているのは、顔の見える個別の企業や担当者です。言葉として「この市場を狙う」と合意していたとしても、その具体的なイメージにずれがあると、施策の方向性が一致しません。

加えて、意識や価値観の違いもあります。マーケティングは「必要な情報を適切に届ける」ことを重視する傾向があり、営業は「相手の反応を見て説得する」ことに価値を感じます。アプローチの方法も異なれば、判断基準にも差が出るのは当然です。

こうした複数のズレが重なってくると、「連携しよう」と言葉で呼びかけるだけではうまくいきません。むしろ、相手のやり方や判断を“理解できないもの”として見てしまい、不信感が募るきっかけにもなります。

連携を強化するには、まずはこのようなズレがあることを前提にし、それを見える形で整理するところから始める必要があります。「相手の理解が足りない」のではなく、「立っている場所が違うから見え方が違う」という視点が、関係の再構築につながります。

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「連携=情報共有」では足りない理由

営業とマーケティングの連携というと、「もっと情報を共有しよう」「定例会を開こう」という発想になりがちです。もちろん情報共有は連携の第一歩ですが、それだけで機能するほど、両者の関係は単純ではありません。むしろ、情報は共有しているはずなのに、うまく噛み合わないというケースの方が多いのではないでしょうか。

その理由のひとつが、「言葉の定義」が揃っていないことです。たとえば、「有望なリード」という言葉を使っていても、マーケティング側はスコアリングで高評価だった見込み客を指し、営業側はヒアリングの感触から受注可能性が高そうな相手を想定しているかもしれません。表面上は同じ言葉を使っていても、その裏にある基準や意味合いが一致していなければ、情報はすれ違うだけです。

また、情報共有のタイミングや方法にも課題があります。月に一度の報告会やスプレッドシートによる引き継ぎだけでは、日々変化する現場の温度感までは伝わりません。マーケティング施策の反応や、営業現場でのリアルな会話のニュアンスといった、“数字には出ない情報”こそ、連携には不可欠です。しかし、そうした情報は定型化しにくく、意識的に伝え合わなければ流れてしまいます。

さらに、「情報の受け渡し」が目的化してしまうことも、連携が深まらない一因です。たとえば、マーケティングがリードリストを営業に渡した時点で「自分たちの役割は終わった」と感じてしまえば、営業がそのリードをどう扱ったか、なぜ進まなかったのかという情報がマーケティングに戻ることはありません。その逆も然りで、営業が「もらったリードが悪かった」と言うだけで終わってしまえば、改善のヒントは得られないままです。

本当の意味での連携には、「考え方」や「判断基準」まで共有できているかどうかが問われます。たとえば、どのような問い合わせを“有望”と見なすのか、なぜある業界では反応が鈍いのか、どのタイミングでコンテンツを出すと相手の反応が変わるのか。こうしたことを言語化して、部門を越えて話し合うプロセスがあって初めて、共有された情報が実際のアクションにつながります。

言い換えれば、情報共有は手段であって目的ではありません。ただ情報を流すだけでなく、互いの前提をすり合わせ、同じ地図を見ながら話すことができているか。その観点から見直すことが、連携強化の出発点となります。

協力体制は“共通言語”から始まる

営業とマーケティングの連携を本質的に深めていくには、「共通言語」を持つことが避けて通れません。連携に必要なのは情報量ではなく、情報の“解像度”です。そしてその解像度を左右するのが、言葉の意味のすり合わせです。

たとえば「MQL(Marketing Qualified Lead)」や「ナーチャリング」といった言葉は、マーケティング担当者にとっては日常的に使う用語かもしれません。しかし、営業側ではそれらの定義や運用ルールが曖昧なまま使われていることもあります。用語だけが先に浸透し、具体的なイメージや判断基準が共有されていない状態では、会話の齟齬が生まれやすくなります。

逆に営業の側にも、現場でよく使われる独自の言い回しや省略語、判断基準があります。「この案件は温度感が高い」「先方のキーマンが動き始めている」といった言葉は、営業としての肌感覚を含んだ表現ですが、それをマーケティング側がどのように解釈するかは不明確です。こうした実務用語が意味するところを互いに確認しないまま施策を組んでいくと、細かな行き違いが積み重なって大きなズレになります。

共通言語とは、単に専門用語を揃えることではありません。数字や用語だけでなく、「どういう状態を成果と見なすか」「どんな行動を前向きな反応と捉えるか」といった判断の物差しを揃えることが、本当の意味での共通言語です。

たとえば、ひとつのリードに対して「興味あり」と判断する根拠が、営業とマーケティングで一致しているかどうか。問い合わせフォームからの資料請求と、展示会で名刺交換しただけの接点とを、どう比較しどう扱うのか。こうした基準が言語化されていないと、案件の見込み度や対応優先度について意見が食い違うのも当然です。

共通言語を育てるには、施策や会議の場面ごとに「この言葉の定義を確認しよう」「この判断はどういう前提で行っているか」を確認し合う地道なやり取りが欠かせません。お互いの使う言葉を疑問に思ったときに、それをそのままにせず聞き返せる関係性も重要です。

形式としての“情報共有”や“引き継ぎ”を整える前に、そもそも共通の土台となる言葉があるかどうか。それがなければ、どんな仕組みも形だけで終わってしまいます。協力体制を機能させる鍵は、まず言葉の足並みを揃えることにあります。

協力を促す“場”の設計

営業とマーケティングの連携を進めようとするとき、よくある施策として「定例会の開催」や「月次報告の場を設ける」といったアプローチがあります。しかし、それだけでは本質的な協力体制は築けません。単に顔を合わせる回数を増やしても、相互理解や信頼にはつながらないからです。

大切なのは、「自然と協力せざるを得ない構造」をどう作るかという視点です。連携を求めるのであれば、最初から両部門が関わるしかないような企画設計や、施策運用の枠組みを整える必要があります。

たとえば、新しいキャンペーンやコンテンツ施策を立ち上げる段階から、営業とマーケティングが一緒に議論できる場を設ける。どちらかが案を作り、後から意見を求めるという順序ではなく、初期の「何を目的とするか」から共に設計に関わることで、前提の共有がしやすくなります。この段階での対話があるかどうかが、その後の施策運用の精度に大きく影響します。

また、部門を横断した小さなプロジェクトを組むことも有効です。たとえば特定業界へのアプローチ強化や、ある商品群の訴求方法を再設計する取り組みなど、明確なテーマを持ったチームを編成することで、日常業務とは異なる“越境的な関わり”が生まれます。こうした共創体験は、形式的な会議以上に相互理解を深め、次の連携にもつながっていきます。

その一方で、「連携の場」が成果や進捗の報告に終始してしまうと、実質的な会話が減ってしまいます。報告だけであれば資料のやり取りで済みますが、意見をぶつけ合ったり、判断の背景を聞き合ったりするようなやり取りがある場は、言葉の定義や価値観のすり合わせにもつながります。

もう一つ見落とされがちなのが、「誰が場をつくるか」という点です。部門間の壁を越えるような場づくりには、どちらか一方だけの意志では限界があります。理想を言えば、部門長同士が共同で主導する形が望ましいですが、実際には現場に近い立場のメンバーが小さく始めるケースも多く、それがきっかけで全社的な取り組みに発展することもあります。

重要なのは、「連携を進めよう」という号令だけでは人は動かないという現実を前提にすることです。その上で、日常的に交わる場をどう設計し、対話の回路をどう開くか。連携の仕組みは、制度よりも習慣の中に根づいていくものです。

成果の設計を「受注だけ」にしない

営業とマーケティングの連携がうまくいかない理由の一つに、「成果の見方が偏っている」という問題があります。多くの企業では、営業部門の目標が“受注”に集中しており、それが全体の評価指標になりがちです。もちろん、最終的な成果として受注が重要であることは間違いありません。しかし、それだけを唯一の成果指標とすると、連携が機能しにくくなります。

たとえば、マーケティングがどれだけ質の高いリードを提供しても、営業側で受注に至らなければ評価されない構図では、マーケティングの動きは受注という一時点だけで判断されてしまいます。逆に、営業が提案活動にどれだけ注力しても、初期段階のリードの質に課題があれば、そもそも案件化まで至らないこともあります。

こうした状況を改善するには、成果を“受注というゴール”だけでなく、“プロセスの中でどれだけ前進したか”という視点で見る必要があります。たとえば以下のような指標を、営業とマーケティングの共通の成果として設定することが考えられます。

  • 初回接点後の商談化率
  • 商談のステージ進行数
  • 失注理由の分類と傾向
  • 案件化までの平均期間
  • 特定業界における反応率の変化

これらは、単に「売れたかどうか」ではなく、「売れるまでにどんな動きがあったか」を可視化するための指標です。こうした中間成果を共有しながら、どの段階で機会が失われているのか、どんな情報が足りなかったのかを振り返ることで、両者の改善活動が連動するようになります。

また、マーケティングが“案件化後”の動きに関心を持つことも重要です。営業がどう動いた結果として受注に至ったのか、逆にどこで失注したのかを把握することで、次の施策により具体的な示唆が得られます。同様に、営業も“案件前”の段階―リード獲得から育成に至るプロセス―に目を向ければ、自分たちが受け取るリードの背景や熱量を理解しやすくなります。

成果を「受注だけ」に限定しないという考え方は、責任の分散ではなく、成果を分解し、改善の余地を増やすための設計です。その視点があれば、マーケティングと営業はそれぞれの立場から、より具体的に連携のあり方を見直すことができます。

まとめ ― 「分業しながら共闘する」仕組みへ

営業とマーケティングは、それぞれ異なる専門性と視点を持った機能です。だからこそ、分業によって役割を明確にしながらも、全体としては同じ方向を向く「共闘」の構造が求められます。これまで見てきたように、両者の連携を阻んでいるのは、情報不足というよりも、“見ている基準”や“判断の前提”の違いです。

そのズレは、指標、時間軸、顧客像、言葉の意味など、目に見える部分だけでなく、組織文化や価値観といった目に見えにくい部分にも存在します。単に「もっと連携しよう」と呼びかけるだけでは、こうした深層にある違いには届きません。

では、どうすれば実質的な協力体制を築けるのか。その答えは、仕組みと習慣の両面にあります。共通言語の整備、施策設計段階からの関与、小さなプロジェクトによる共創体験、プロセス全体に目を向けた成果の再設計。こうした取り組みを積み重ねることで、「それぞれの役割を果たしながらも、互いに補完し合う」という関係が形になっていきます。

重要なのは、片方のやり方をもう一方に押しつけるのではなく、違いを理解したうえで、それぞれの強みを活かす前提をつくることです。営業が現場での実感を言葉にし、マーケティングがその意図を汲み取って施策に反映する。マーケティングが仕掛けたコンテンツの反応を営業が共有し、次の動きを加速させる。そんな往復が生まれる関係が、本来あるべき“分業しながら共闘する”姿です。

連携は、成果を左右する手段であると同時に、組織としての健全性を映す鏡でもあります。営業とマーケティングが互いの視点を持ち寄り、補い合える関係になっているか。そこに目を向けることが、よりよいチームづくりと、持続的な成果につながっていきます。

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