2025-07-04
カスタマージャーニー設計の“仮説出し”にLLMを活用する方法
BtoB 営業・マーケティング コラム
カスタマージャーニーの設計は、企業や組織のマーケティング活動の中でも重要な位置を占めています。とくに“仮説出し”の段階は、ジャーニーマップ全体の質を左右する土台となりますが、実際には「どこから考え始めればいいか分かりにくい」「メンバーの経験や主観に依存しやすい」といった課題もよく見られます。
こうしたなかで、近年はLLM(大規模言語モデル)を活用した新たなアプローチが注目され始めています。LLMは、多様な情報をもとにテキスト生成や要素の整理を行える技術であり、アイデアの出し方や仮説の広げ方に新しい選択肢をもたらしています。
本記事では、カスタマージャーニー設計における“仮説出し”のプロセスでLLMをどのように活用できるのか、その考え方や進め方、また実際に取り入れる際に気をつけたいポイントについて解説します。LLMを活用することで生まれる仮説の幅や、現場で検討を深める際のヒントを持ち帰っていただければ幸いです。
目次
カスタマージャーニー設計における“仮説出し”とは
カスタマージャーニー設計において、“仮説出し”は最初のステップとして欠かせない工程です。ここでいう仮説とは、顧客がサービスや製品に出会い、認知・関心を持ち、検討し、意思決定に至るまでの流れや、その中で何を感じ、どのような行動を取るのかについての予想や推論を指します。
本来、ジャーニーマップの設計は、事実やデータだけではなく「この場面で顧客は何を考えるだろうか」「どこに疑問や不安を感じるのか」といった、人の解釈や想像が多分に含まれます。過去の事例や顧客インタビューの結果をもとに組み立てる場合でも、限られた情報をつなぎ合わせながら一つひとつのフェーズを描いていくことが求められます。
しかし、実務の現場では“仮説出し”が思うように進まないケースも少なくありません。理由の一つは、議論が担当者やプロジェクトメンバーの経験則や主観に頼りがちになるためです。会議の場で意見が分かれてしまったり、納得感を得るまでに時間がかかったりすることもよくあります。
また、カスタマージャーニーの設計には、複数のタッチポイントや関係者の視点を含めて考える必要があり、全体像を俯瞰しながら細部の仮説も立てていく作業は、想像以上に労力を要します。その結果、「とりあえずありきたりな仮説に落ち着いてしまう」「今までと同じパターンをなぞるだけになってしまう」といった課題も起こりがちです。
“仮説出し”の質がカスタマージャーニー全体の精度や活用価値を大きく左右する以上、従来の枠組みにとらわれず、より多様な視点やアイデアを取り入れる工夫が求められています。新しい情報の取り入れ方や発想法を柔軟に採り入れることで、より現実的で有効なジャーニーマップを構築できる可能性が広がります。

LLMとは何か、なぜ“仮説出し”に向いているのか
LLM(大規模言語モデル)は、膨大なテキストデータをもとに言語を理解し、自然な文章を生成できるAI技術の一つです。近年、対話型AIの進化により、業務のさまざまな場面で活用される例が増えてきました。LLMは単に知識を持っているだけでなく、多様なテーマや条件に応じた言語のパターンを学習しているため、与えられた情報から柔軟に文章を生成したり、要素を整理したりすることができます。
カスタマージャーニーの“仮説出し”においてLLMが注目されている理由は、主に次の三点にあります。
一つ目は、情報の整理力です。LLMは複数のインプット情報をもとに論点を抽出し、関連性を整理するのが得意です。例えば、顧客像や市場環境、これまでの対応事例といった断片的な情報をまとめ、全体像を可視化するサポートが期待できます。
二つ目は、多様な視点の提示です。人だけで議論を進めると、どうしても過去の経験や既存の枠組みに考え方が寄りがちですが、LLMを使うことで普段とは異なる視点や論点が浮かび上がることがあります。AIは特定の分野や業界に偏らず、幅広いパターンを参照しながら仮説を提案するため、思い込みにとらわれない新たな気づきを得やすくなります。
三つ目は、仮説生成のスピードです。LLMは与えられた要素をもとに短時間で複数の仮説案を出力できます。従来は何度もブレーンストーミングを重ねていたような場面でも、AIを活用することで効率よく検討を進めることが可能になります。
もちろん、LLMの出力は必ずしも現実の顧客行動や意図をそのまま反映しているわけではありません。あくまで過去の膨大なテキストデータからパターンを抽出して生成しているため、最終的な判断や修正は人の役割となります。ただし、情報の整理や発想の広がりといった点で、“仮説出し”の支援に向いたツールであることは間違いありません。
このように、LLMはカスタマージャーニー設計の現場に新しい発想と効率化の機会をもたらしつつあります。次章では、実際にLLMを“仮説出し”でどう活用していくか、具体的なプロセスを見ていきます。
カスタマージャーニーの“仮説出し”でLLMを活用する実際のプロセス
カスタマージャーニーの設計では、認知から興味・関心、比較・検討、意思決定、導入後の活用まで、顧客が体験する一連の流れを具体的に描き出していくことが求められます。それぞれのフェーズごとに、どんな接点で何が起こり、顧客がどんな気持ちや疑問を持ちやすいのかを想像し、仮説を立てていくことがスタート地点となります。
LLMを活用する際には、まずインプットとなる情報を整理します。例えば、「対象となる顧客の属性」「業界や市場環境」「これまでの営業活動やマーケティングの知見」など、現状で把握できる情報をまとめ、ジャーニーのどのフェーズ・どの接点について仮説を考えたいのかを明確にしておきます。こうした下準備を行うことで、AIに具体的な問いかけができ、出力の精度や実用性を高めることにつながります。
次に、LLMへの問いかけの工夫がポイントになります。たとえば「初めてウェブサイトを訪れた顧客は、どんな疑問や不安を感じやすいか」「比較検討段階で生まれやすい懸念点は何か」「サービス導入後に期待されるサポートはどのようなものか」といったように、各フェーズや接点ごとの気持ちや行動、心理の動きに注目した質問を設計します。事実だけでなく、感情や意識の変化にもフォーカスすることで、実態に即した仮説案を引き出しやすくなります。
LLMからアウトプットされた仮説案は、一度一覧化して整理します。フェーズごと・接点ごとにまとめたり、「現場でよく聞く課題」「意外性のある仮説」など、いくつかの観点で分類するのも有効です。全体を俯瞰しながら、前後の流れやつながりを意識してチェックし、矛盾や抜けがないかを確認します。
また、カスタマージャーニーは複数の関係者が関わることも多いため、エンドユーザー、意思決定者、現場担当者など、それぞれの立場や役割ごとに仮説を出し分けてみるのも効果的です。同じプロセスでも見る立場が違えば、疑問や課題の内容も変わってきます。LLMを活用することで、こうした多様な視点を取り入れることも可能です。
最後に、全体の流れや各仮説の関係性をストーリーとして整理し直すことが大切です。AIから得た仮説を組み合わせるだけでは、リアルなジャーニー像になりにくい場合もあるため、最終的には人の目で全体の整合性や具体性を確かめ、必要に応じて追加の質問や再検討を行います。
このように、カスタマージャーニーの各段階で想定される疑問や心理、接点のつながりを意識しながらLLMを活用していくことで、仮説出しの質と幅を大きく広げることができます。
LLM活用のメリットと限界
LLMをカスタマージャーニー設計の仮説出しに活用することで、得られるメリットは少なくありません。まず最大の特長は、アイデアや仮説を短時間で幅広く集められる点です。従来であれば、複数のメンバーで何度もディスカッションを重ねる必要があった仮説出しの作業も、AIを活用することで効率よく進められます。事前に整理したインプットをもとに問いかけを設計すれば、短時間で複数の切り口から仮説案を引き出せるため、検討の初期段階における発想の幅が一気に広がります。
また、LLMは特定の経験や価値観にとらわれず、さまざまなパターンや視点を提示できるのも大きなメリットです。社内だけで議論していると、どうしても過去の事例やメンバーの知見に引きずられがちですが、LLMは第三者的な立場から多様な仮説を提示してくれるため、普段は出てこない着眼点に気付くきっかけにもなります。
さらに、複数の関係者やフェーズごとに異なる仮説を出し分けたり、心理面や行動の変化といった細かな観点にも柔軟に対応できるため、複雑なカスタマージャーニー設計の作業においても、その有用性を発揮します。
一方で、LLMの活用には限界も存在します。AIが生成する仮説は、あくまでこれまで学習したテキストデータやパターンにもとづくものであり、現実の顧客行動や自社の特殊性を完全に反映できるわけではありません。出力された仮説が抽象的にまとまってしまうことや、実態とかけ離れた内容が含まれる場合もあります。
また、LLMは論理的なつながりや時系列の整合性を自動的に保証できるわけではなく、全体の流れやストーリーとしてのリアリティは、最終的に人の目で精査し調整する必要があります。仮説出しの工程をすべてAI任せにするのではなく、あくまで「幅を広げるための補助ツール」として位置付け、現場の知見や判断と組み合わせて活用することが不可欠です。
このように、LLMの活用は発想の幅やスピードを大きく向上させる一方で、最終的な仮説の実効性や精度は人の目と経験に委ねられています。AIと人の役割を適切に分担し、バランス良く活用していくことが、成果につながるポイントとなります。
活用を成功させるためのヒント
LLMをカスタマージャーニー設計に取り入れてみると、「AIから出てきた仮説がどれも現実味に欠ける」「便利だが、現場の意見とどう折り合いをつければいいか迷う」など、プロセス以外の壁に直面することが少なくありません。ここでは、そうした場面で役立つ実践的なヒントを紹介します。
まず、LLMの出力はあくまで“材料”と捉えるのがポイントです。出てきた仮説を「正解」と見なさず、意見を出し合うきっかけや検討の幅を広げるための一助として使う意識が大切です。AIが提示した内容をそのまま使うのではなく、「なぜこういう仮説になったのか」「この案を実際の現場に当てはめるとどうなるか」といった“問い返し”をチーム内で重ねることで、議論が深まります。
また、AIの仮説と現場の肌感覚が食い違う場面では、違和感を率直に言語化し、理由をみんなで考えてみると、新たな気づきや論点が浮かび上がることもあります。AIとのやりとりを単なる一方通行で終わらせず、「現場のリアル」と「AIからの新しい視点」を行き来することで、議論自体の質も上がりやすくなります。
さらに、LLMの活用をプロジェクト単位で終わらせず、振り返りの時間を設けて「このやり方は良かった」「ここはもっと工夫できそう」といったナレッジを記録・共有することもおすすめです。特にカスタマージャーニーのように関係者が多いテーマでは、合意形成のプロセスや仮説のブラッシュアップの方法を標準化しておくと、次の取り組みがよりスムーズになります。
最後に、AIの活用に苦手意識を持つメンバーや、逆に過信しがちなメンバーが出てくることも想定されます。それぞれの立場や意見を尊重しつつ、AIと人間双方の強みを引き出すための場づくりを意識することが、チームとして成果を出すポイントになります。
まとめ
カスタマージャーニー設計における“仮説出し”のプロセスは、従来から多くの工夫や試行錯誤が重ねられてきました。ここにLLMという新たな選択肢を加えることで、アイデアの幅やスピード、視点の多様性は確実に広がっています。一方で、AIから生まれる仮説をどう現場の知見や感覚と組み合わせ、実際のジャーニーマップとしてまとめ上げていくかは、依然として人の役割が大きな部分を占めます。
LLMの活用は、あくまで“きっかけ”や“材料”を得る手段のひとつです。最終的な意思決定や設計の精度を高めるためには、AIと人が対話しながら納得感を醸成し、プロセスそのものを継続的に磨いていく姿勢が欠かせません。
今後もテクノロジーの進化によって、仮説出しや設計の在り方は変化し続けるでしょう。LLMの活用を柔軟に取り入れつつ、現場のリアルな課題や気づきを大切にすることで、より実践的で価値あるカスタマージャーニーを描いていけるはずです。
