2025-07-25
“決裁者リスト”vs“部長リスト”――営業現場が意識すべきターゲット選定
BtoB 営業・マーケティング コラム
「“決裁者リスト”と“部長リスト”――営業やマーケティングの現場で、この二つの呼び方の違いに疑問を持ったことはありませんか?
新規開拓やアプローチ先の選定で、どちらを選ぶべきか悩む方も多いかもしれません。しかし現場の実情をふまえると、この二つを厳密に区別する意味は実はほとんどありません。
なぜなら、日本の多くの企業では、役員や取締役が部長職を兼ねているケースも上場企業を含めて珍しくなく、「決裁者リスト」と「部長リスト」の間に明確な線引きをすることが非常に難しいからです。どちらの名称を使っても、実際のリストは役員・部長クラスを幅広くカバーしているのが一般的です。
リストの名前にこだわるよりも、意思決定に関わる幅広い役職層を一括で押さえておくことが、営業活動の現場ではもっとも合理的な方法といえるでしょう。
本記事では、「決裁者リスト」と「部長リスト」の呼び分けが生まれた背景や、実際のリストの中身、そして企業の意思決定プロセスの実情まで、現場目線でわかりやすく整理します。
“決裁者リスト”と“部長リスト”――よくあるイメージとその背景
営業やマーケティングの現場では、「決裁者リスト」や「部長リスト」という言葉を耳にする機会が多くなりました。新規開拓や見込み顧客へのアプローチを考えるとき、「ターゲットは誰か」を明確にすることは成果に直結するため、リストの役職レベルが議論になるのは自然なことです。けれども、この二つの呼び方がどうして使い分けられているのか、その背景や業界の流れを意識している人は意外と少ないのではないでしょうか。
「決裁者リスト」という言葉は、多くの場合「企業における最終的な意思決定権を持つ人の一覧」として受け取られています。たとえば、取締役や代表取締役、あるいは事業部長など、各社で“ここがゴール”とされる役職が登録されていることが一般的です。
一方、「部長リスト」といえば、「部門の責任者」「現場を統括する管理職」といったイメージが先行します。営業活動においては、「部長=決裁者」とみなしてアプローチするケースも多く、特に組織規模が大きくなるほど、“部長”の役割がクローズアップされやすくなります。
こうしたリスト名称の使い分けは、営業ターゲットをどこまで絞るかという現場の悩みから生まれました。誰にコンタクトを取るのが最も効率的か、どの層に情報を届けることで商談化・受注の可能性が高まるか――そうした“現場起点”の思考が根底にあります。
たとえば、初回の商談提案は「部長」クラスで十分でも、最終的な契約や発注の際には「取締役」や「執行役員」が承認する必要がある、といった具合です。
このような複雑な意思決定フローを見越し、「決裁者リスト」や「部長リスト」という分類が定着したと言えるでしょう。
また、日本の組織構造は階層的な傾向が強く、現場の“窓口”となる部長クラスから役員・取締役へと稟議が上がる流れが今も広く見られます。そのため、営業リストの購買担当者や実務者は「とにかく決裁ラインにリーチしたい」「現場の責任者と話したい」という要望から、さまざまな切り口でリスト商品を探してきた歴史があります。
しかし、名称やイメージが異なるとはいえ、実際の営業現場で本当に重要なのは“役職名そのもの”よりも「誰が意思決定に関わっているか」「どの層に情報を届けるのが現実的か」という視点です。
呼び方やリストのタイトルは便宜的なもので、ターゲティングや営業の成否を左右する要素の一部にすぎません。

実務での違いは実は“曖昧”
「決裁者リスト」と「部長リスト」という呼び名は、一見すると明確な区別がありそうですが、営業やリスト運用の現場ではその境界線は驚くほどあいまいです。
企業組織では最終的な決裁権が形式上トップにあることが多いものの、実際の業務運営では案件の種類や規模、重要度に応じて現場の部長や本部長、役員などに決裁が委ねられています。どの役職がどこまで決裁権を持つかは、企業ごとのカルチャーやガバナンス体制によっても大きく異なり、一律に判断することはできません。
さらに、役員や取締役が部長職を兼ねているケースも上場企業を含めて少なくありません。ただし、こうした兼任の実態は外部からは分かりにくく、公式な組織図や公開情報だけでは把握できない場合が大半です。リストを作成する立場から見ても、企業ごとの役職構造や実際の“決裁ライン”を完全に読み解くのは困難だと言えます。
実際のリスト商品も、多くは役員・部長クラスを広くカバーする設計になっています。「決裁者リスト」と呼ばれていても実態は役員や部長をまとめて収録していることが多く、「部長リスト」でも役員や本部長が含まれる場合があります。「本当に決裁者だけを抽出できないか」といった要望が寄せられることもありますが、組織の事情があまりにも多様であるため、厳密に“決裁権を持つ人だけ”をリスト化するのは現実的にはほぼ不可能です。
営業の現場でも、「まずは部長クラスにアプローチし、必要に応じて上位役職へつないでもらう」といった段階的な営業プロセスが一般的です。どちらのリスト名にこだわるよりも、自社の営業目的や商材、ターゲット企業の実情に合わせて幅広い役職層を押さえておくことのほうが、実践的かつ合理的な方法だと言えるでしょう。
幅広い役職層を押さえることが“現場での合理解”
営業やマーケティングの現場では、ターゲットとなる役職を絞り込むよりも、役員から部長クラスまで幅広く押さえておくことが、実践的で合理的なアプローチだと感じる場面が多くあります。
たしかに「決裁者だけをリストアップしたい」「部長に直接アプローチしたい」といったニーズは根強く存在しますが、実際の営業活動では、それだけでは商談や案件化に結びつきにくいという現実があります。
まず、どの企業でも組織の意思決定プロセスは一様ではなく、業種や規模、経営体制によって決裁権限の所在が異なります。
また、同じ「部長」という役職でも、その裁量範囲や実質的な権限は企業ごとに大きく違っており、社内でどの程度の案件まで判断できるかも千差万別です。
そのため、最初から「この役職だけを狙う」と絞り込んでしまうと、本来なら案件につながったはずのアプローチ機会を自ら狭めてしまうリスクがあります。
加えて、営業現場で実際にアプローチできる人物は、役職や組織図だけでは決まらないという現実があります。
電話やメール、オンラインでのアプローチにおいては、受付対応や秘書、現場担当者など、さまざまな“壁”を乗り越えなければなりません。
部長や役員クラスへの直接連絡が難しいときは、まず担当者や課長レベルに接点を作り、そこから“社内紹介”の形で上位役職者に情報が伝わることも多いのが現実です。
こうした営業プロセスを経て初めて、商談の本質的なフェーズ――すなわち意思決定層との対話――に進めるケースも少なくありません。
また、最近は組織のフラット化やプロジェクト単位での意思決定も増えており、固定的な役職名だけでターゲットを絞ること自体が難しくなってきています。
こうした背景もあり、「役員から部長クラスまで幅広くカバーしたリストを用意し、状況や目的に応じて柔軟にアプローチ先を見極めていく」という営業スタイルが、より成果につながりやすいと考えられるようになりました。
結果として、役職層を広く押さえるアプローチは、「どんな企業でもどんな商材でも通用する万能策」というわけではありませんが、多様な意思決定フローや現場事情に対応できる“地に足のついた営業活動”の基盤になることは間違いありません。
リストを活用するうえでも、呼び名や形式的な分類にこだわりすぎず、「この企業、この案件ではどこまでをターゲットとするのが合理的か」という視点で、幅広い役職層を押さえておくことが実務現場での現実的な“最適解”になっています。
まとめ
「決裁者リスト」と「部長リスト」という呼び名やイメージの違いは、実際の営業現場や組織の運用実態をふまえると、明確に区別できるものではありません。多くの企業で役職や決裁権限のあり方が多様化し、組織構造も日々変化している中、名称にとらわれすぎることに実務的な意味はあまりありません。
本当に大切なのは、営業やマーケティング活動の目的やアプローチ方法に応じて、「どの役職層まで幅広く押さえておくか」「自社の商材や営業戦略にふさわしいターゲットをどう見極めるか」という視点です。
役員から部長クラスまでを一括でカバーできるリストを柔軟に使いこなすことが、結果として現場の課題解決や成果につながる場面が多いのではないでしょうか。
リストのレギュレーション(役職などのカテゴリーや定義)にこだわるよりも、実際の営業活動に即した合理的な視点でリストを選び・活用していくことが、これからの時代により重要なはずです。
