2022-12-26

BtoB営業における「モノ売りからコト売りへ」の転換に必要なものと、簡単ではない理由

BtoB 営業・マーケティング コラム

BtoBの営業でも「モノ売りからコト売りへ」の転換が必要だという声をよく耳にし、それを目標として掲げる企業も増えています。しかし、それがスローガンにとどまり、実行段階まで進めないケースが多いのが実態です。

そもそも「コト売り」を営業スキルの問題と捉えるような誤解もあります。コト売りとは優れた営業パーソンの個人技でないのはもちろん、営業組織の戦術でもありません。企業が戦略として取り組むべき、ときには組織カルチャーの変革も要求される「一大シフト」です。

この記事では「モノ売りからコト売りへのシフト」とはなにか、そのためには何が必要かを解説します。

「モノ売り」から「コト売り」へとは

高度成長、技術革新の時代は、企業は製品の性能、機能を競って市場を拡大し、シェアを伸ばしてきました。これがモノ売りの時代です。

しかし、技術開発が行き着くところまで行き着き、競争相手が出そろった成熟市場では、モノ売りだけでは利益を出しにくくなりました。製品に大きな機能・性能の差がないとすると、価格を下げるか、納期を早めるかしか、他社と差別化を図れないからです。

そこで注目されるようになったのが「コト売り」という考え方です。BtoCでいうならスターバックスの「コーヒーを売るのではなく、家でも職場でもない第三の場所(サードプレイス)を売る」が有名なコト売り宣言ですが、それをBtoBに置き換えるとどうなるのでしょうか。

コト売りのチャンスは、顧客の業務のボトルネックやリスクの中に眠っている

モノではなくコトを売るとは、顧客が必要なもの(不足しているもの)を売るのではなく、必要性に気づかせることです。

たとえば、経営コンサルタントの小泉耕二氏は、次のような「コト売り」の例をあげています。

製造業の顧客に産業機械を販売・メンテナンスしているBtoB企業は、従来の事前保全(定期メンテナンス)と事後保全(故障の修理)に加えて「予知保全」を提案して、コト売りに成功し、顧客の信頼を深めました。

その背景には、AIが発達して産業機械にセンサーを取り付けることで故障を予知できるようになったことがありますが、それはまだ顧客企業の視野には入ってなく、突然の操業停止という大きなリスクを回避できるベネフィットに気づいていなかったのです。

参考:「モノ売り」から「コト売り」へ ーB2Bでもできる考え方の基本

このように、BtoBのコト売りは「フットワークの良い出入り業者」という営業スタンスとは明らかに一線を画するものです。顧客企業の業務の流れ(カスタマージャーニー)をよく理解し、そのボトルネックやリスクを顧客よりも早く察知する必要があります。

「悩み」が「課題」に顕在化する前に提案するのがコト売り

コト売りは「課題解決型の営業」とか「価値提案型の営業」と説明されています。確かにその通りですが、そう言ってみただけでは前へは進めません。

また、課題の解決といっても、顧客がすでに課題として意識し、何が必要かの見通しがついているものなら、関連業者を呼んで具体的なツールを提案してもらい、見積もりを取るという普通の受注・発注になります。ソフトウェアなら、ベンダーに提案依頼書を渡して、開発費用や期間を相談することになります。

このような営業は、声が掛かった時点で「コト売り」としては出遅れており、顧客に主導権を取られています。価格競争と納期競争の中でうま味の少ない仕事をせざるを得ません。

先述の例のように、顧客に「予知保全」という発想がないうちに、内心では危惧していた突然の故障発生のリスクを回避する筋書(ストーリー)を提案をするのが、コト売りです。

オンライン施策では難しい役職層にアプローチ!|ターゲットリスト総合ページ

コト売りへのシフトには何が必要か

モノ売りからコト売りへのシフトを掲げてもなかなか実態がともなわないのは、顧客の課題が顕在化する前にそのソリューションを提案する、ということの難しさにあります。

長年付き合ってきた既存客に対する提案も簡単ではありませんが、見込み客にコト売りでアプローチするのは至難の業というべきでしょう。

しかし、コト売りへのシフトによって業績を伸ばしているBtoB企業も実際にあります。そういう企業には何があって、実行に踏み切れない企業には何が足りないのでしょうか。

松井製作所のコト売りへのシフト

コト売りへのシフトに成功したBtoB企業に松井製作所があります。松井製作所はプラスチック成形工場で利用される「成形用設備・システム」の製造と販売を行っている企業です。

松井製作所はコト売りの営業を「装置を販売する一般的な営業とは異なり、業界セグメントごとの素材、成形品、金型などのトレンドを収集。より専門的な知識により、お客様の潜在的な課題を解決する仕事です」と位置付けています。

引用元:事業内容|会社を知る|松井製作所 採用サイト

「お客様の潜在的な課題を解決する」ためには「業界セグメントごとの素材、成型品。金型などのトレンドを収集」し、「より専門的な知識」でアプローチする必要があるという認識です。

この認識を実行に移すためには一社の力だけでは足りないと松井製作所は考えました。そこで実施したのが、関連企業10数社の参加による「グリーン・モールディング・ソリューション協会」の立ち上げ(2010年)です。

この協会では「資源の浪費をなくし、資源生産性を4倍にすることにより、今の豊かさを2倍にし、資源消費は半分にできる」をコンセプトに、ウェビナーやメールマガジンで、広く次のような情報を提供しています。

成形品の寸法精度を高めるには?
成形品のヒケや反りは樹脂が冷えて固まる時に発生します。変形をおさえるいくつかの方法をご紹介します。
工場の冷却水、品質の維持はできていますか?
安定生産には、冷却水の水質維持が欠かせません。環境への配慮も必要です。原因別の対策をご紹介します。
ガスによる成形不良、どう対処してますか?
成形の大敵 "ガス" の発生を抑制する、発生したガスを取り除く、その方法とは?

引用元:グリーン・モールディング・ソリューション協会

ウェビナーやメールマガジンは無料なので、この活動はかなり大きな「投資」になります。しかし、この活動によって松井製作所は「ソリューション・カンパニー」として、広く顧客層に認知されることになりした。

コト売りに必要な2つのこと

マーケティングコンサルタントの庭山一郎氏は、コト売りへのシフトに必要な「決定的な要素」として、「ソリューションブランドとして認知されること」と「課題探知能力」の2つを挙げています。

前者については松井製作所の例でご理解いただけると思いますが、そこからコト売りに歩を進めるには、ターゲット企業の潜在的な課題を探知する必要があります。この探知能力について庭山氏は次のように語っています。

「顧客企業の奥深くでひっそりと発芽し、未だ競合が誰も気がついていない顧客の課題を発見し、図のように、そのタイミングで的確にアプローチしなければなりません」

コト売りの営業活動

引用元:SIerがコト売りに転換できない2つの決定的な要素 | 戦略なきIT投資の行く末 | コラム | マーケティングキャンパス

もちろん、顧客あるいは見込み客の潜在的な課題を察知するのは簡単ではありません。庭山氏が指摘するように、それを行うにはMA(マーケティングオートメーション)も駆使した情報活用で企業の動向を探る仕組みが必要です。

「コト売り」を始めるまでに個人としてできることは?

「あの会社に相談すれば何か良いことがある」というソリューション・カンパニーとしてのブランドも、顧客の潜在的な課題を察知する仕組みも、一朝一夕に手に入るものではありません。

一個人の仕事でないのはもちろん、営業組織だけでも荷が重く、企業全体が戦略として取り組んで初めて成果が上がるテーマです。

しかし、マーケターや営業パーソンが「それは経営者の仕事だ」と考えるのでは、いざコト売りへシフトしようとするときに、企業内にそれを遂行できる人材が養われていないことになります。その日のために、個々のマーケターや営業パーソンが、顧客の立場に立った課題解決というマインドを養い、情報を活用、統合する仕組みの中で役立つことができる知的武装をしておく必要があります。

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