2025-05-16
「届かない」「つながらない」に挑む ― 会えない相手と向き合うリストの戦略
BtoB 営業・マーケティング コラム
「つながれそうでつながれない」「情報発信しても響かない」――。商談や営業活動の現場で、“会えない相手”が増えていると感じる企業は少なくありません。「電話をかけてもつながらない」「メールを送っても反応がない」。以前はアポイントが取れていた相手にさえ、いまは連絡すら取れない。そうした行き詰まりに、もどかしさを感じている方も多いのではないでしょうか。
こうした状況で、行動量を増やすだけでは成果につながりにくいのが実情です。むしろ問われるのは、“リスト”を起点にしたアプローチの設計であり、相手と自社との関係性を見直し、「どうすれば接点が生まれるのか」を考える視点です。
本記事では、“会えない相手”を攻略するためのリスト戦略について、現状認識から具体的なアクションまでを整理します。
目次
なぜ“会えない相手”が増えたのか ― 現状認識と背景
営業やマーケティングの現場で、「相手に会えない」「連絡がつかない」と感じる場面は、ここ数年で確実に増えています。
これは単なる担当者レベルの話ではなく、企業を取り巻く環境そのものが変化した結果といえます。
「会えない相手」が増える3つの背景
まず押さえておきたいのは、“会えない相手”が増えた背景には、次の3つが重なっているということです。
1. 情報過多による「選別志向」の強化
インターネットやSNSの普及により、企業も個人も日常的に膨大な情報にさらされています。その中で、「自分に関係ない情報は受け取らない」「本当に必要なものだけを見る」といった“選別志向”が当たり前になりました。かつては営業電話やDMに対しても一定のリアクションがありましたが、現在は「知らない相手からの連絡=無視する」ことが合理的な行動とされています。
発信する側がどれだけ熱心に情報を届けようとしても、受け手が選ばない限りは届かない。この構造的な壁が、“会えない相手”を生み出しているのです。
2. 業務効率化による「窓口の絞り込み」
企業側の事情も無視できません。業務効率化の一環として、外部からの提案や営業を受け付ける窓口が限定される傾向が強まっています。「問い合わせフォームからのみ受付」「特定部署以外は対応しない」など、組織的な防波堤が築かれ、個別アプローチの難易度が上がっています。
また、既存取引先との関係を重視し、新規の提案をシャットアウトする動きも珍しくありません。これにより、「リストに名前はあるが実際には接触できない」という状況が増えていきます。
3. 競争環境の激化と「認知の壁」
市場の競争が激しくなる中、自社の情報や存在を相手に知ってもらうこと自体が難しくなっています。
特に中堅企業や新規事業部門のように、まだ相手に知られていない企業・サービスは、“そもそも認知されていない”というハードルに直面します。アポイントを取る以前に、「聞いたことがない」「興味が持てない」と判断され、接点すら持たせてもらえないケースが多くなります。一方で、大企業や広く知られたブランドの場合は、相手が事前に調べてくれる、話を聞く価値があると認識してもらえるため、アプローチの壁が低くなる傾向があります。
こうした「知っているか、知らないか」によって、そもそものスタートラインが変わってしまい、このギャップが、“会えない相手”を増やす大きな要因になっています。
これまでのリスト運用が効きづらくなった理由
上記のような背景を踏まえると、従来の「とにかくリストを作り、片っ端からアプローチする」スタイルが通用しなくなったのは当然といえます。従来型のリストは、「名前と連絡先があれば接点を作れる」という前提で作られていました。しかし現在は、接点そのものが遮断される状況が前提になりつつあります。
このズレを認識しないまま、これまで通りの方法を続けても、“会えない相手”が増え続けるだけです。だからこそ、リストの在り方や使い方を見直し、「なぜ会えないのか」「どうすれば接点が作れるのか」という視点で考える必要があります。
“会えない相手”の攻略は、単なる行動量の問題ではなく、アプローチの質と戦略の問題なのです。

“会えない相手”をリストで捉え直す ― 「会えない理由」の解像度を上げる
“会えない相手”を攻略するために、最初に必要なのは「なぜ会えないのか」をきちんと理解することです。
単に「反応がない」「つながらない」といった現象だけを見ていても、具体的な対策は生まれません。
ここで重要なのが、リストを使って“会えない理由”を因数分解し、その解像度を上げることです。
「リストにいる=攻略できる」は間違い
営業リストに載っている相手を“見込み客”とひと括りにしてしまうのは、現代の営業活動においては危険な発想です。
リストに名前が載っているのは、あくまで「過去に関係があった」「将来関係ができるかもしれない」という可能性が示されているだけで、
“今すぐ接点を持てる相手”とは限りません。
この前提を誤ると、「連絡先があるのに会えない」という行き詰まりに直面します。
だからこそ、リスト上で“会えない理由”を具体的に捉え直すことが重要なのです。
“会えない理由”を因数分解する
“会えない”という現象には、複数の要素が絡んでいます。
代表的なものを以下に整理します。
1. 物理的距離
- 地理的に拠点が離れていて訪問が難しい
- 移動コストが見合わないため後回しにされる
2. 心理的距離
- 会社名やサービスを知られていない
- 相手にとって「関係ない」と思われている
- 競合との違いが伝わっていない
3. 組織的距離
- 担当者と決裁権限者が遠い
- 提案窓口が限定されている
- 既存取引先との関係が強固で入り込めない
4. 接触手段の不足
- 直通の電話番号やメールアドレスがない
- 名刺交換すらできていない
- オンラインでの接点も見つけにくい
5. タイミングのズレ
- 相手が情報収集段階にない
- 決裁時期が異なる
- 事業フェーズに合っていない
これらの要素を因数分解し、「どの理由で会えないのか」をリスト上で明確にすることが、次の一手を考える基盤になります。
リストで“距離感”を可視化する
単なる名簿としてのリストではなく、「物理的距離」「心理的距離」「組織的距離」などの“距離感”を可視化するリストが重要になります。
たとえば、以下のような項目を設けることで、アプローチの優先度や手段が見えてきます。
- 認知度(高/中/低)
- 接触手段の有無(直通電話あり/間接経由/なし)
- 決裁ルートの把握状況(明確/不明/未調査)
- 関心テーマ(把握済/推測/未取得)
こうした情報を“空欄のまま”にしないことが、リストの精度を高め、“会えない相手”を攻略するための第一歩になります。
“今すぐ会えない相手”も戦略対象にする
「会えそうな相手だけにアプローチする」のではなく、“今すぐは会えない相手”をどう攻略するかをリスト上で設計する発想が求められます。
- いまは興味を示していない
- いまは接触できない
- いまはタイミングが合わない
こうした相手も、適切な情報提供や関係構築を通じて、将来的な接点に変わる可能性があります。
リストは“会えない相手”を除外するためのものではなく、
「どんな距離感で、どう育てるか」を考えるためのツールとして活用すべきなのです。
“会えない相手”にどう接点を作るか ― リスト運用で変えるべき3つのアクション
“会えない相手”に接点を作るには、従来型のリスト活用とは異なるアプローチが必要です。リストに載っている=アプローチできる、という時代はすでに終わっています。今求められるのは、「どんな相手に、どんな手段で、どう関わるか」を設計し直すことです。
この章では、リスト運用を通じて接点を生み出すために見直すべき3つのアクションを紹介します。
①“探しに行く”だけでなく“気づかせる”リスト活用
営業活動では、どうしても「自分から動く」「自分から接触する」という姿勢に偏りがちです。もちろん積極的に動くことは重要ですが、それだけでは“会えない相手”には届きません。特に認知されていない相手には、自社の存在や提案の価値を“相手に気づいてもらう”仕掛けが必要です。
そのためには、リストを「自社から誰に働きかけるか」だけでなく、「相手に自社をどう知ってもらうか」を考える視点で使います。
たとえば、
- 定期的な情報提供で“思い出させる”
- 業界動向や課題に絡めたコンテンツで“共通点に気づかせる”
- 周囲の企業の導入事例を示すことで“自分ごと化”を促す
こうしたアプローチの設計も、リスト上の属性や反応履歴から導き出せます。
②“接触手段”を広げるリスト拡張と整備
“会えない”理由のひとつに、「そもそも連絡手段が限られている」という問題があります。電話番号がない、メールが届かない、DMが不達になる――これでは接点を持つこと自体が不可能です。
ここで必要になるのが、接触手段の整備と拡張です。リストの中身を見直し、以下のような情報を補っていくことで、アプローチの選択肢が広がります。
- 代表電話・直通番号の両方を把握しているか
- 部署代表アドレスと個人アドレスを区別しているか
- 郵送先の部署名・フロア情報まで含めて管理できているか
- オンラインでの接点(SNSアカウントやセミナー参加履歴など)を反映しているか
すでに保有している情報でも、整備されていなければ活用できません。リストは「件数」ではなく「活用可能な情報量」で評価すべきものです。
③“継続的な関与”を前提にしたリスト運用
“会えない相手”を攻略するうえで最も大事なのは、一度きりの接触で完結しないことです。アプローチの成果は、1回の電話や1通のメールでは測れません。
むしろ、「最初は反応がなかったが、何度かの接点で興味を持ってもらえた」「時間をかけて関係が深まった」といったプロセスが重要です。そのためには、リストを「継続的な関与の軸」として運用する必要があります。
例えば以下のような運用が考えられます。
- タッチ履歴を記録し、反応の有無でステータスを分ける
- 3ヶ月、6ヶ月ごとにアプローチを設計し直す
- コンテンツ配信、DM、電話フォローなどを組み合わせる
ここで鍵になるのは、リスト自体を“動かす”ことです。情報が更新され、アプローチ状況が見える化されていれば、営業チームの中で「次に何をすべきか」が共有されやすくなります。“会えない相手”に接点を作るには、「数をこなす」ではなく「接点を設計する」ことが必要です。
そのための基盤となるのが、アクションを変えるリスト運用の視点です。
短期と長期で考える“会えない相手”攻略 ― リスト戦略の視野
“会えない相手”へのアプローチは、一度の接触で完結するものではありません。連絡が取れない、反応がないといった現象に対して、その都度「ダメだった」と判断してしまえば、リストはただの不達先集に過ぎなくなります。
重要なのは、“会えない”という状態を前提に、短期と長期、両方の時間軸で戦略を立てる視点を持つことです。
「今すぐ会うべき相手」と「時間をかけて育てる相手」
リスト上にいる全ての相手が、今この瞬間に商談化できるわけではありません。そこで、次のようにリストを分けて考えることが有効です。
短期的な対象(今すぐ接点を持ちたい相手)
- 明確なニーズを持っている可能性がある
- 既に一定の接点があり、再アプローチが効果的
- 営業施策の直近の成果につながる可能性がある
長期的な対象(関係性を築いていく相手)
- 現時点ではニーズや関心が表面化していない
- 認知度が低く、まずは信頼の醸成が必要
- 定期的な情報提供を通じて関係を構築する対象
このように、リストを短期/長期の両視点で分類・評価することで、「今動くべき相手」「これから育てるべき相手」が明確になります。
リストに“時間軸”の情報を持たせる
時間軸の視点をリストに反映するには、単なる属性情報だけでなく、「接点履歴」や「過去の反応状況」を記録しておくことが有効です。
例えば、
- 最終接触日とその内容(電話/メール/DMなど)
- 反応の有無と温度感(興味あり/無反応/拒否)
- 配信済みコンテンツと開封状況
- 商談検討の時期(短期/未定/来期以降)
こうした情報をリストに持たせることで、相手との関係性を時間の中で追えるようになります。一見「反応がない相手」も、3ヶ月後には別の状態にいるかもしれない。そうした“変化の可能性”を見越してリストを設計しておくことが大切です。
短期の成果と長期の育成は両立できる
短期と長期の視点は、どちらかを選ぶものではなく、両方を並行して持つべきものです。短期の成果ばかりを求めると、リストはすぐに枯れ、見込み層の育成が置き去りになります。逆に、長期的な視点だけでは、目の前の商談機会を逃すリスクがあります。
だからこそ、リストの中に「今会うべき相手」と「これから会う相手」を混在させ、それぞれに合わせた対応を設計する必要があります。
- 今動けるリストは、確実に成果へ結びつける
- 今は動けないリストは、関係性をつなぎ続ける
この二軸の運用が、“会えない相手”を単なる“対象外”にせず、いずれ接点を持つための資源に変えていく鍵になります。
“リストにいるのに成果につながらない”という感覚は、しばしば時間軸の捉え方が欠けていることに起因します。短期と長期を分けて考え、それぞれに合った設計をリストに落とし込むことで、“会えない相手”は「今はまだ会えない相手」へと変わります。
接点は突然生まれるのではなく、意図を持って「待ち続ける」中で生まれていくのです。
“情報が届かない”を突破する ― 会えない相手に届くアプローチ設計
“会えない相手”に共通するもう一つの課題が、「情報が届いていない」という問題です。
たとえDMを送ったり、メール配信をしたりしていても、実際には相手に伝わっておらず、無反応のまま時間だけが過ぎているケースは少なくありません。
ここでは、相手に“届く”アプローチとは何かを見直し、そのためにリストをどう設計・活用すべきかを考えます。
「送っている」のに「届かない」理由
「情報は発信している」「定期的にメールも出している」――それでも反応がないのはなぜか。そこには、以下のような“届かない構造”が潜んでいます。
- 相手にとって関心のないテーマだった
- 差出人に信頼や認知がなく、開封されなかった
- 情報量が多すぎて、埋もれてしまった
- 配信チャネルが相手の習慣に合っていなかった
- タイミングが合っていなかった(忙しい時期、決算月など)
“送ったかどうか”ではなく、“届いたかどうか”“読まれたかどうか”“記憶に残ったかどうか”が重要です。その違いを見極めずに送付だけを繰り返しても、会話のきっかけは生まれません。
相手視点で“受け取れる情報”を設計する
本当に届く情報とは、相手の立場や関心に合っていて、受け取る余地がある情報です。それは、企業が一方的に伝えたいことではなく、「その人が、今、知りたいこと」に沿っている必要があります。
たとえば、
- 役職や部門に応じて課題設定を変える
- 季節・時期によって関心テーマをずらす
- 導入事例や業界ニュースの形で届ける
- 「何かあったら連絡ください」ではなく、「○○の件で状況を伺わせてください」と具体的にする
こうした情報の組み立て方は、リスト上の属性データや過去の反応履歴に基づいて設計できます。つまり、“届く情報”を作るには、“誰に届けるか”の理解が不可欠であり、そこにリストの活用価値があるのです。
接触手段の特性を理解する
情報が届かない理由のひとつに、アプローチ手段の選定ミスもあります。それぞれのチャネルには特性があり、相手によって“届きやすい手段”は異なります。
手段 | 特性 | 向いている状況 |
---|---|---|
メール | 手軽・反復可能・開封率は低め | 定期的な情報提供・資料送付 |
電話 | 即時性・会話で反応が取れる | 担当者が明確な相手・フォロー用途 |
DM | 物理的な存在感・開封率が高い | メールが届かない相手・印象付け |
SNS | 関心喚起・接点維持 | 関係が浅い層への継続的接触 |
単一の手段に依存するのではなく、相手の情報接触スタイルに合わせて、複数のチャネルを組み合わせることが、“届かない”を突破する鍵になります。
リストは「届けるために使う」
ここまで見てきたように、リストはただの管理台帳ではありません。相手に届く情報を設計し、実行するための道具として使ってこそ意味があります。
以下のような設計が可能です。
- 情報が届かない相手にDMを送る
- メールを開封していない相手に電話フォローを入れる
- オンラインセミナー未参加者に、別チャネルでリマインドを送る
こうした動きができるかどうかは、リストに「チャネル別の接触状況」や「過去の反応」が記録されているかにかかっています。“届かない相手”にこそ、リストを活用したアプローチの設計力が問われるのです。
まとめ
“会えない相手”という存在は、もはや例外ではなく、どの業界・どの企業にも共通する営業上の現実です。
情報は届かず、反応も得られず、連絡の糸口さえつかめない。そんな相手にどうアプローチするかは、これからの営業やマーケティングにおいて避けて通れない課題です。
こうした相手に対して、行動量をただ増やすだけでは、成果は望めません。
必要なのは、“なぜ会えないのか”を正しく捉え、“どうすれば接点を生み出せるか”を設計することで、そのための起点となるのが、リストの再定義です。
リストは「会える相手を探すための名簿」ではなく、“会えない相手とどう関係を築いていくか”を考えるための思考ツールとして活用すべきです。
- 物理的・心理的・組織的な“距離”をどう測るか
- 接触手段をどう広げ、どのチャネルで届けるか
- 今すぐ接点を持つべき相手と、時間をかけて育てる相手をどう見分けるか
こうした判断を支えるのが、リストです。
“リストを使ってアプローチする”のではなく、“リストを使って考える”。その視点を持つことで、“会えない相手”との関係づくりにも、一歩踏み出すことができます。
営業活動や情報発信の成果は、短期的に見れば「数」に現れます。しかし中長期的には、「誰に、どう向き合ったか」が積み重なり、やがて目に見える変化を生み出します。
会えない相手との接点は、偶然のひらめきではなく、積み重ねた設計から生まれます。リストをそのための“戦略の土台”として活用することこそが、次の一手を生み出す現実的な第一歩なのです。
