2025-05-20
“人が動いたあと”の営業リストの見直し方
BtoB 営業・マーケティング コラム
春から初夏にかけて、企業の人事異動が本格化する時期。営業活動の現場でも、その影響は少なからず表れます。これまでやり取りしていた相手が異動で姿を消し、新たに着任した担当者とは関係性がゼロからのスタート。タイミングによっては、案件自体が止まってしまうこともあります。
こうした変化に慌てず対応するためには、普段使っている営業リストの整備が欠かせません。特にこの時期は、単なる情報の書き換えや追記では追いつかない“前提の揺らぎ”が起こるタイミングでもあります。人の入れ替わりが前提となる以上、「変わったあと」に備えておくことが重要です。
この記事では、人事異動の季節に営業がどのような視点でリストを整備すべきか、その考え方と実務のヒントを整理します。
目次
人事異動が“静かに”リストを壊す
人事異動の時期になると、営業活動にも少なからず揺らぎが生じます。これまでやり取りしていた担当者が突然いなくなったり、返信がぱったりと止まったり。自分では何も変えていないのに、関係性の糸が急に断ち切られたような感覚を覚えることがあります。
とはいえ、すべてのケースがそうなるわけではありません。すでに関係性ができあがっている相手であれば、異動の際に後任を紹介してもらえたり、継続的な対応がなされることも珍しくありません。むしろ、ある程度の信頼関係があれば、異動をきっかけに別の接点が増えることさえあります。
問題は、そこまでの関係が築けていなかった相手、もしくはやり取りが一時的に止まっていたようなケースです。数ヶ月前には話が進んでいたのに、久しぶりに連絡を取ってみたら異動していた。送った資料が返送されてきた。電話しても「担当が変わっております」と言われて会話が途切れる――こうした変化は、リスト上には何も表示されないまま、静かに起こります。
営業リストの価値は、見込みの数や精度だけで決まるものではありません。「今、その相手と確実にコンタクトが取れるかどうか」という実用性が最も重要です。表面的には名前も部署もそのまま載っていても、実際には使えない情報になっている。こうしてリストは、気づかれないまま劣化していきます。
異動による変化は、いつも分かりやすい形で現れるわけではありません。何となく感触が悪くなった、反応が鈍くなった。そう感じたときには、既に情報が古くなっている可能性を疑うべきです。そうでなければ、営業活動そのものがリストの不確かさに引きずられて、じわじわと非効率になっていきます。

変化を前提にしたリスト管理とは
営業リストに求められるのは、情報の正確さだけではありません。正しく登録された情報でも、数週間後には役に立たなくなってしまう場合があります。特に人事異動の時期には、昨日まで有効だった情報が今日からは通用しない、ということが実際に起こります。
この前提に立つと、リストは「正しい状態を保つもの」ではなく、「変化に対応できるもの」として捉える必要があります。単に書き換えや削除を繰り返すだけでは、変化に後追いで対応するだけの場当たり的な運用になってしまいます。重要なのは、変化を織り込んだリストの設計と運用です。
たとえば、1人の担当者に強く依存する構成になっていないかどうか、あるいは「この人がいなくなったときに、誰に何を聞けばいいのか」が把握できるようになっているかどうかといった視点が重要です。そうした備えの有無が、異動などの変化に対する耐性を大きく左右します。
実務レベルでの対応としては、複数の接点を持つ、役職や部署をリスト上で明確に区別しておく、定期的にフラグ管理を行う、といった方法が挙げられます。個人単位の情報を集めるだけでなく、その背後にある組織構造や決裁ラインをできるだけ読み取っておくことも有効です。
また、過去にどんな異動や組織変更があったかといった履歴を記録しておくことで、「次に注意すべきタイミング」が読みやすくなります。以前にどのような人が関わっていたのか、どのタイミングで組織が動いていたのかを把握しておくことで、連絡の仕方や提案の切り口に迷いが生じにくくなります。
変化の予兆をすべて読み取ることはできませんが、それを前提とした設計にしておくことで、リストが“使えなくなる”事態を最小限に抑えることができます。更新のタイミングを待つのではなく、「いつ動いてもおかしくない」と捉えたうえでリストを扱うことが、変化に強い営業チームの実践している姿勢です。
“抜けた”ポジションの扱い方
営業リストの中でも、重要なポジションを担っていた人物が抜けた場合、その影響は無視できません。特に案件の進行に関与していた、あるいは意思決定の中核にいた相手がいなくなると、現場では「次に誰と話すべきか」がわからなくなるケースが目立ちます。
こうした状況に直面したとき、多くの営業現場では“空白”のまま放置されがちです。引き継ぎを受けられなかった相手の欄がそのままになり、メモや履歴も更新されないまま残る。そうしている間にも、時間だけが過ぎていき、案件は停滞していきます。
まず必要なのは、一時対応と再構築の視点を分けて考えることです。急ぎのやり取りがある場合には、当面の窓口になりうる相手を探す必要があります。部署代表の連絡先や共通の事務局など、暫定的に情報を得られるルートを押さえておくことが、次の接点のヒントになります。
一方で、中長期的にはポジションそのものの再構築が必要です。役職や部門の役割から逆算して、「このポジションが空いたままだと商談が進まない」という地点を特定し、その周辺を手がかりに候補者を探していくのが基本的な流れになります。
たとえば、同じ部内の別の管理職、以前に関連のあった人物、あるいは他部門との兼任がありそうな人材など。情報の断片から次の接点を割り出す作業には多少の労力がかかりますが、それをリスト上で“やり残したまま”にしておくと、いずれリストそのものの精度が落ちていきます。
また、こうした再構築は単独で行うより、営業チーム内で情報を共有しながら進めるほうが効果的です。自分の担当外に見えても、実は誰かが似たような状況を既に経験していることもあるため、複数人の視点を持ち寄ることで復元の精度が上がります。
ポジションの空白は、一見すると単なる“空欄”に見えますが、放置すれば営業上のブレーキになります。空いたら埋める。誰かがいなくなったら、誰かを探す。単純なようでいて、それをきちんと回せるかどうかが、リストの生命力を左右します。
“入ってきた人”にどう向き合うか
営業リストを更新していると、異動によって「新しい担当者の名前が入った」というだけで、ひとまず情報は整ったように見えます。しかし、実際の営業現場ではそこからが本番です。名前がわかったからといって、すぐに同じような提案が通るわけではなく、新任者には新任者なりの事情や判断基準があります。
着任直後の担当者は、まだ前任者の案件を十分に把握していないことが多く、そもそも話が前に進まないこともあります。逆に、自分の裁量を示すために、過去の進行を一度止めてゼロベースで見直そうとする場合もあります。どちらにしても、リスト上での「差し替え」以上の準備が営業側には求められます。
こうした状況では、「何を提案するか」以前に「どこまで相手が把握しているか」を確認するところからスタートする必要があります。前任者とのやり取りの履歴や、過去に共有した資料の内容、社内での反応などを営業側が丁寧に把握しておくことで、新任者にとっての“手間”を減らすことができます。
その意味で、リスト上に履歴やメモがどれだけ残っているかは大きな差になります。商談の経緯、社内での議論の断片、過去の問い合わせ内容など、単なる名刺データでは拾えない情報が蓄積されていれば、初動での信頼感の形成にもつながります。
また、新任者の情報そのものも、ただ役職や氏名だけでなく、社歴や前任部署、最近の社内発信などから背景を探ることで、より適切な接し方が見えてくることがあります。特に自社の提案内容がその人の専門性や過去の業務と重なっている場合は、スムーズな入り口になることもあります。
異動は、新しいチャンスでもあります。前任者とはうまく進まなかった案件が、新しい目線で再検討されることもあるためです。問題は、そのチャンスを生かせるだけの“準備”がリスト上でなされているかどうか。単なる更新ではなく、関係づくりの入り口としての更新になっているかが問われます。
再整理だけでは不十分な場合もある
人事異動の影響を受けた営業リストを見直す際、つい「誰が抜けたか」「誰が入ったか」といった更新作業に意識が向きがちです。もちろんそれは必要なプロセスですが、それだけでは対応しきれないケースがあることも、実務のなかでは少しずつ見えてきます。
たとえば、異動と同時に組織改編が行われ、これまで接点のあった部門そのものが他部門に吸収された、あるいは担当領域が大きく変わったといったケースでは、単純な担当者の入れ替えだけでは済みません。誰に連絡を取るべきかという以前に、「そもそも今、この企業の中で自社が話すべき相手は誰なのか」という問い直しが必要になることもあります。
また、異動により新たに現れた担当者の職位や専門領域を見て、「今後この企業が重視する方向性が変わりそうだ」と感じる場面もあります。そうしたときには、従来の提案方針や接触の手順そのものが、見直しの対象になる可能性があります。単に情報を整えるだけでなく、アプローチ全体を再設計する視点が必要になります。
さらに、企業内での役割が曖昧化している場合、誰が判断の起点になっているかが見えづらくなることもあります。以前は特定の部門に話を通せばよかったものが、今は複数の部門をまたぐ構成になっているなど、社内の力学が変わっていることに気づかず従来のルートに固執すると、提案がうまく届かないという事態にもつながります。
こうした状況では、リストの「内容」を整理するだけでなく、「構造」を再点検する必要があります。どのような分類軸で整理されているか、どういった基準でターゲットが選ばれているか。それらが現在の営業方針や市場環境に合っていなければ、整っているように見えるリストも、実際には有効に機能しません。
変化が続く中で、営業リストに求められるのは“現状に追いつくこと”ではなく、“これから先の状況にも耐えられるかどうか”です。単なる整理整頓にとどまらず、「今の前提で、誰と何を話すべきか」という問いを持ち続けられるかが、営業の質を左右します。
リスト整備は“担当者”任せにしない
営業リストの管理は、つい一部の担当者に任せきりになりがちです。現場で日々やり取りしている本人が情報を一番よく知っているというのは確かにその通りですが、それが行き過ぎると、情報の更新や整備が属人化し、組織としての一貫性が失われていきます。
たとえば、Aさんが担当していた企業の情報は細かく更新されているのに、Bさんの担当分は半年以上放置されている――こうしたばらつきがあると、いざというときに「使えるリスト」として機能しなくなってしまいます。営業チーム内で誰が見てもある程度の信頼性を持って活用できるようにするためには、属人的な管理から脱する仕組みが欠かせません。
また、営業の現場では“知ってはいるけどリストには反映していない”という状態が起こりやすくなります。異動の話を聞いたものの、手が回らず記録に残していなかった。急ぎのやり取りを優先しているうちに、担当変更を他のメンバーに伝えそびれていた。そういった情報の取りこぼしは、後から見直すと意外に多くあります。
こうしたギャップを防ぐには、個人の記憶や判断に依存せず、共有の基準とルールをあらかじめ定めておくことが効果的です。たとえば、異動を把握した際にはどのタイミングでリストに反映するのか、履歴はどの形式で記録するのか、確認が取れない場合はどうフラグを立てるのか。こうした基本の型があるだけでも、情報のばらつきは大きく減らせます。
また、日頃からチーム内でリストの状態を可視化しておくことで、整備の「し忘れ」や「思い込み」に気づきやすくなります。ミーティングの際に気になる先を共有するだけでも、別のメンバーが有益な情報を持っていたり、過去のやり取りが見つかることがあります。
営業リストは、単に情報を並べるためのものではありません。チーム全体で手を入れ続けることで、ようやく“使い続けられる道具”になります。整備を一部の人に任せるのではなく、チーム全体で情報を動かし、育てていく姿勢が重要です。
まとめ
人事異動は、企業の内側で起こる変化でありながら、営業現場にも確実に波紋を広げます。接点が突然なくなったり、関係構築が振り出しに戻ったり。リストという形で情報を持っていても、その実用性が失われることで、営業活動全体の足元が揺らぐこともあります。
だからこそ、異動の季節はリスト整備の“実行タイミング”としてとても重要です。ただ情報を更新するだけでなく、「変化に対応できるか」「失われた接点をどう補うか」「新しく入ってきた人とどう向き合うか」といった複数の視点で整備を進めることで、リストは単なる名簿ではなく、使える営業資源へと変わっていきます。
その際に求められるのは、管理だけに終始しない姿勢です。ポジションが空いたときに誰を当てにすればいいのか、担当者が変わったときに何を手がかりに話を始めるべきか。そうした“次の一手”を迷わず打てる状態を保つには、日常的に情報を更新し、チーム全体で共有しながら使い続ける意識が欠かせません。
人事異動は誰にも止められない変化ですが、それにどう備えるかは、営業チーム次第です。周囲が対応に追われているときこそ、落ち着いてリストを整え、次の接点を探し直しておく。そうした差は一見地味ですが、あとから効いてくるものです。異動を“リストの乱れ”として終わらせるのではなく、“立て直しの機会”と捉えられるかどうかが、営業活動の底力を決めていきます。
