2025-07-08
ソリューション営業の仮説出しはLLMでどう変わる?
BtoB 営業・マーケティング コラム
近年、営業現場ではお客様ごとに最適な提案を組み立てる「ソリューション営業」の重要性が高まっています。ソリューション営業とは、単に自社商品やサービスを売り込むのではなく、お客様の抱える課題や目指す姿に寄り添い、個別の状況にあわせた解決策を提案する営業手法です。従来型の「モノ売り」ではなく、お客様ごとに仮説を立て、その仮説に基づいたストーリーを描きながら、提案内容を練り上げていく点が特徴と言えます。
しかし、こうした「仮説出し」や提案ストーリーの設計は、担当者の経験や知識に大きく依存しやすく、営業チーム内でもノウハウの属人化や仮説精度のばらつきが課題となってきました。AI技術、とくに大規模言語モデル(LLM)の進化によって、営業現場の「仮説出し」や提案ストーリーの自動生成が、現実的な選択肢として広がりつつあります。
本記事では、ソリューション営業における“仮説出し”の課題を振り返りながら、現場でのLLM活用の可能性とその限界について、夢物語ではなく「現実に使えるAI活用」という視点から考えていきます。なお、ソリューション営業自体の詳しい定義や背景については、こちらの記事(「顧客と共に成果を創る「ソリューション営業」の実践ガイド」)でも解説しています。あわせてご参照ください。
目次
ソリューション営業における“仮説出し”の現在地
ソリューション営業は、お客様ごとに異なる課題やニーズを的確に把握し、それに最適な解決策を提案することが求められます。その核となるのが「仮説出し」です。つまり、事前にお客様の業界動向や経営課題を読み取り、どのような本質的課題が存在しうるかを想像しながら、自社の強みと結び付けるためのシナリオを描くプロセスです。
この仮説出しの質が、提案の説得力や商談の成功率を大きく左右します。しかし現実には、限られた情報や時間の中で本質を見抜くのは簡単なことではありません。情報収集の範囲が狭くなりがちだったり、個人の経験や直感に頼りすぎてしまったりすることも多いでしょう。とくに、業界知識や商談経験が浅い担当者の場合、仮説そのものが表層的になりがちで、深みのある提案ストーリーに至らないケースも少なくありません。
また、仮説出しの工程はどうしても属人化しやすいという課題もあります。営業チーム内で仮説の精度や切り口にばらつきが生まれ、ノウハウがうまく共有されないまま各自が独自に苦労している状況も見受けられます。その結果、「仮説出し」に多くの時間と労力が割かれる一方で、肝心の提案内容が差別化しきれず、似たようなストーリーや解決策に落ち着いてしまうこともあります。
こうした現状を打開するため、現場では営業フレームワークや課題ヒアリングシートなど、仮説出しを支援する仕組みが導入されてきました。しかし、それらの活用にも限界があります。テンプレートやチェックリストに沿った提案は一定の質を担保できる一方で、個々のお客様に深く刺さる独自性のあるストーリーを生み出すには、やはり人の知恵や創造力が不可欠とされてきました。
このように、ソリューション営業の現場では、「誰もが納得できる仮説出し」と「個別最適なストーリー設計」をどう両立するかが、いまだ大きな課題となっています。こうした状況を受けて、大規模言語モデル(LLM)を活用した仮説出しや提案ストーリーの自動生成が、現場で実際に取り組まれ始めています。

LLMによる“仮説出し”の新しいアプローチ
これまでソリューション営業の現場では、仮説出しにおいて担当者個人の経験や勘、過去の提案事例、業界知識などに大きく頼ってきました。しかし、膨大な情報の中から本当に価値のある示唆を見つけ出すのは容易ではなく、知識やリサーチの負担が増す一方でした。こうしたなかで注目されているのが、大規模言語モデル(LLM)を活用した新しい仮説出しのアプローチです。
LLMは膨大なテキストデータを学習し、与えられたテーマや条件に応じて高度な文章生成や要約、分析をおこなうことができます。これを営業現場の仮説出しに活用することで、次のような特徴や利点が生まれます。
第一に、LLMは人の頭の中だけでは追いきれない幅広い視点や切り口を即座に提示できる点が挙げられます。たとえば「この業界の顧客が直面しやすい本質的な課題は何か」といった問いに対しても、過去の事例やトレンドを横断的に参照しながら多様な仮説を生成することが可能です。これは、個々の営業担当者の情報収集能力や業界知識に依存せず、一定の水準以上の仮説を短時間で複数案得ることを意味します。
第二に、仮説だけでなく、その仮説を軸とした「提案ストーリー」を自動的に構築できるのもLLMの強みです。たとえば「顧客の業務効率化」という仮説に対し、「なぜそれが重要なのか」「どのような課題が想定されるか」「自社はどんなアプローチで貢献できるか」など、ストーリー展開までを一貫してアウトプットできます。これにより、提案の説得力や一貫性も向上します。
また、従来の情報検索ツールや単なる要約機能と異なり、LLMは「状況の整理」だけでなく「仮説をもとに新たな観点や解決策を提案する」役割を担うことができます。つまり、検索や要約の域を超え、「この条件ではこういうストーリーが考えられる」「ここを深掘りすべき」といった、より創造的な思考補助として活用できる点が従来型AIやツールとの決定的な違いです。
このように、LLMを活用した仮説出しは、「短時間で幅広い視点を得られる」「ストーリーまで一貫して形にできる」「人の直感だけに頼らない仮説生成ができる」といった新しい可能性を、営業現場にもたらしつつあります。
現場でのLLM活用 ― 提案ストーリー自動生成の流れ
営業現場で大規模言語モデル(LLM)を活用する際、単に仮説を列挙させるだけでなく、提案ストーリー全体を自動生成する流れに組み込むことが実践的なポイントとなります。ここでは、その一連の流れと現場での工夫について整理します。
まず、営業担当者が取り組むべきは、入力となる情報や条件の整理です。顧客企業の業界や規模、直面している課題の断片、公開情報、これまでの取引履歴など、できるだけ具体的な文脈をLLMに伝えることで、より現実的で意味のある仮説が出やすくなります。このとき、必要以上に詳細な情報を与えようとするより、「何が分かっていて、何が分かっていないか」を簡潔にまとめて指示するほうが、LLMの出力精度を高めるポイントとなります。
次に、LLMから生成された仮説を受け取り、その内容に応じて「なぜその仮説が重要なのか」「その課題が放置された場合の影響」「どのような解決策が有効か」といったストーリー展開までを自動的に生成します。LLMは一度に長い文章を出すだけでなく、「仮説」「背景」「解決策」「自社が関われるポイント」といった各要素ごとに段階的に質問を重ねることで、ストーリー構成の深みや一貫性を補強することができます。
現場でLLMを活用する際は、出力内容をそのまま使うのではなく、営業担当者自身が自分の知識や直感と照らし合わせて違和感の有無をチェックする工程が欠かせません。特に、表面的なキーワードだけで仮説やストーリーが組み立てられていないか、提案内容が顧客の状況と本当に合致しているかといった観点は、人が最終的に判断することになります。
また、LLMを効果的に使いこなすためには、「どのような問いかけ(プロンプト)」を設定するかが重要です。漠然とした指示だと、抽象的な仮説ばかりが返ってくることもあります。逆に、実際の営業現場で起こる具体的な悩みや、お客様ごとの細かな事情を意識した問いかけを工夫することで、アウトプットの精度は格段に上がります。
こうしたプロセスを繰り返すことで、個人の知識や経験だけでは到達できなかった新しい提案ストーリーや切り口を得ることが可能となります。営業現場でLLMを活用する意味は、単なる効率化にとどまらず、ストーリーの独自性や幅を拡げることにあると言えるでしょう。
AIの限界と、現実的な運用のために考えておくべきこと
大規模言語モデル(LLM)による仮説出しや提案ストーリーの自動生成は、従来の営業手法に比べて大幅な効率化や、新しい切り口の発見といった実利をもたらしつつあります。とはいえ、現場での運用にあたっては過度な期待や理想論だけでなく、その特性や限界にも目を向けることが欠かせません。
LLMのアウトプットは、ときに根拠のあいまいな主張や、事実と異なる内容を含むことがあります。文章としてはもっともらしく見えても、内容の検証を怠れば、誤った情報をそのまま顧客や社内に伝えてしまうリスクがあるため注意が必要です。とくに、実在しない事例や不正確な統計を根拠として提示することもあり、営業現場での活用にあたっては、必ず人の目によるチェックや事実確認の工程が欠かせません。
また、LLMは企業や業界の最新動向、個々の顧客の細かな事情まですべてを把握しているわけではありません。どうしても一般論や抽象的な提案にとどまりがちなため、現場で求められる具体性や独自性を引き出すには、人の経験や現場感覚との組み合わせが必要です。
重要なのは、「LLMの利用=最先端」という構えで臨むのではなく、業務の実利や成果につながる手段として、冷静かつ現実的に使いこなしていくことです。たとえば、情報収集や仮説立案の効率化、提案パターンの幅出しといった点では、LLMを取り入れることで業務負荷を大きく減らし、これまで思いつかなかった視点や新しい提案ストーリーを得られる可能性も十分にあります。
一方で、活用するうえでは「AIが提案したから大丈夫」と過信せず、自分自身の目で内容を確認し、必要に応じて修正や補足を加える――こうした現実的な運用姿勢こそが、LLMを実際の成果につなげていくためのカギとなります。
まとめ
大規模言語モデル(LLM)の登場により、ソリューション営業の仮説出しや提案ストーリーの構築は、新しい段階に入りつつあります。従来は担当者の経験や勘に頼らざるをえなかった業務も、LLMを活用することで、より短時間で多様な切り口やストーリーを検討できるようになりました。これにより、営業活動の効率化だけでなく、従来にはなかった発想やアプローチが現場にもたらされる可能性が広がっています。
一方で、LLMのアウトプットには、現実とは異なる内容や根拠が不明確な情報が含まれる場合もあり、全てを鵜呑みにすることはできません。最終的な判断や提案の組み立てには、やはり営業担当者自身の知識や現場感覚が欠かせません。AIを使いこなすという発想ではなく、実際の業務に役立てる道具のひとつとして、冷静に取り入れ、適切に使い分けていくことが大切です。
今後、営業現場でLLMをはじめとするAI技術がますます活用されていく中で、「人」と「AI」が補い合いながら、それぞれの強みを引き出す働き方が求められていくでしょう。仮説出しや提案ストーリーの質を高めるための新しい選択肢として、LLMの可能性を現実的に活かしていく。その積み重ねが、これからの営業現場を着実に進化させていくはずです。
