2025-07-07

バリュー・ベース・セリング×生成AI ― 自社の価値訴求はどこまで自動化できるか

BtoB 営業・マーケティング コラム

営業やマーケティングの現場で、「自社ならではの価値」をどう伝えるかは、長年にわたり多くの企業が向き合ってきたテーマです。バリュー・ベース・セリングが広がるなか、顧客ごとに最適な価値訴求を行う重要性は高まる一方で、その実践には手間や時間、そしてノウハウの壁も立ちはだかっています。

こうした中で登場した生成AIは、価値訴求の方法そのものを大きく変えつつあります。営業資料や提案内容の自動生成だけでなく、社内に眠るナレッジの活用や、自社の強みを再発見し言語化する取り組みも現実味を帯びてきました。

バリュー・ベース・セリングと生成AI――この二つが交わることで、「自社ならでは」の価値をどのように創出できるのか。本稿では、その具体的な可能性と、人が果たすべき役割について考えていきます。

バリュー・ベース・セリングの要点と課題

バリュー・ベース・セリングは、単なる製品やサービスの特徴を伝えるのではなく、顧客が感じる「価値」を中心に提案を組み立てる営業手法です。重要なのは、自社が持つ強みや特徴を一方的にアピールするのではなく、相手の立場や状況に応じて「なぜその価値が相手にとって意味を持つのか」を具体的に示すことにあります。

この考え方が注目される背景には、顧客のニーズがより多様化し、同じ商品でもその価値が相手によって変わってくる現実があります。「自社ならではの価値訴求」を徹底するためには、単なる説明や情報提供だけでなく、顧客ごとに最適な伝え方や内容の工夫が求められます。

しかし、こうした価値訴求を実践するにはいくつかの課題があります。まず、相手の業界や状況に合わせて情報を集め、整理し、それを自社の強みと結びつけて言語化するプロセスは想像以上に手間がかかります。さらに、担当者によって伝え方にばらつきが出たり、過去の成功事例が十分に活用されなかったりといった課題も残ります。

バリュー・ベース・セリングの本質は、「相手ごとに最適な価値を見つけ、それを伝える」ことにありますが、現場でこれを継続的に実践し続けることは簡単ではありません。どんなに優れた商品やサービスを持っていても、その価値が適切に伝わらなければ成果にはつながりません。こうした現場の課題は、依然として多くの企業にとって重要なテーマであり続けています。

バリュー・ベース・セリングの内容や考え方については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

オンライン施策では難しい役職層にアプローチ!|ターゲットリスト総合ページ

「価値訴求」の現場で直面する悩み

バリュー・ベース・セリングの重要性が広く認識されている一方で、その実践には多くの現場が共通して抱える悩みがあります。最も大きな壁となるのは、「顧客ごとに最適な価値提案を準備するための負担が大きい」という点です。

営業担当者が限られた時間の中で、個々の顧客の業界動向や課題、自社との接点を把握し、それに合わせて資料や提案を準備するのは簡単なことではありません。

また、社内に蓄積されたナレッジや過去の提案事例を十分に活用しきれないことも多く、同じような価値訴求が繰り返されたり、担当者ごとに伝え方や表現に差が出てしまうこともあります。

これにより、せっかくの強みや特長が相手に正確に伝わらず、差別化の機会を逃してしまうケースも少なくありません。

さらに、価値訴求を行うためには、単なる情報提供や商品の説明にとどまらず、「なぜそれが顧客にとって意味を持つのか」を明確に言語化する力が必要です。しかし、この“言語化”の部分こそが現場で最も苦労するポイントでもあります。

担当者の経験やスキルによってアウトプットの質が左右されやすく、安定した価値訴求を続けていくのは現実的には容易ではありません。

こうした悩みを乗り越えるためには、単に個人の努力や経験だけに頼るのではなく、組織全体で知識やノウハウを共有し、効果的に活用していく仕組みが求められています。

価値訴求の“型”や“考え方”を共通言語として持ちつつ、顧客ごとに最適化された提案をいかに生み出すか――その解決策が現場では常に求められています。

生成AIで何が変わるのか

生成AIの登場により、バリュー・ベース・セリングにおける価値訴求のアプローチにも新たな可能性が生まれています。これまで提案書や営業資料の作成、社内ナレッジの整理、個別の顧客対応などは、主に担当者の経験や手作業に依存してきました。そのため、情報収集や言語化にかかる手間や、アウトプットのばらつきは避けがたいものでした。

近年、生成AIを営業やマーケティング業務の一部に活用しようとする動きが、企業の間で関心を集めています。たとえば、過去の提案や社内に蓄積されたナレッジをAIが整理し、特定の顧客や業界に合わせて価値訴求文を自動で作成できないか――といった発想が現場でも注目され始めています。これにより、担当者の経験やスキルに左右されることなく、一定の品質や一貫性で価値訴求を行うための基盤が整う可能性が広がっています。

さらに、生成AIは膨大な情報を瞬時に整理し、自社ならではの強みや独自の提案ポイントを引き出す支援にも活用が期待されています。人手では見落としがちな視点や、過去には埋もれていたノウハウが可視化されやすくなることで、提案の幅を広げる手助けとなるでしょう。加えて、社内外のデータや最新動向を反映した内容をタイムリーに盛り込める点も、これまでとは異なる強みのひとつです。

今後、生成AIの進化とともに、価値訴求のあり方そのものが大きく変わる可能性があります。バリュー・ベース・セリングの現場で、AIをいかに活かしていくか――このテーマへの関心はこれから一層高まっていくと考えられます。

バリュー・ベース・セリングを深化させる活用シナリオ

生成AIの活用は、従来の営業活動における効率化だけでなく、バリュー・ベース・セリングそのものをより深いレベルで実現する手段としても注目されています。価値訴求を一層進化させるために、生成AIがどのように役立つのか、その具体的なシナリオについて整理します。

まず、生成AIは膨大な社内ナレッジや過去の提案内容を横断的に分析し、自社の強みやユニークな特徴を抽出するのに活用できます。たとえば、過去のさまざまな成功事例や提案内容をもとに、「なぜ自社が選ばれてきたのか」「どのような価値が評価されたのか」を自動的に整理することができます。これにより、従来は担当者ごとの経験や記憶に頼っていた“自社ならではの価値”が、組織全体の財産として共有しやすくなります。

次に、生成AIは顧客ごとの状況やニーズに応じて、最適な訴求ポイントやストーリーを提案内容として自動生成することも可能です。これまでテンプレート化されがちだった提案書やプレゼン資料も、AIの力を活用することで、より個別性の高い内容へとアップデートできるようになります。これにより、顧客ごとに異なる背景や課題に対して、具体的で納得感のある価値提案を行う基盤が生まれます。

また、生成AIは最新の市場動向や競合状況など、社外のオープンデータと自社の情報を組み合わせて分析することも可能です。これにより、自社だけでなく、顧客の置かれた環境や課題に即した訴求ポイントをタイムリーに抽出できるようになります。

こうした仕組みを導入することで、営業現場では個人のスキルや属人的な工夫に依存しすぎることなく、組織全体で一貫した高品質な価値訴求を目指せるようになります。AIを活用して「自社ならではの価値」を言語化・体系化し、顧客ごとに最適化された訴求内容を提案できることは、これからの営業やマーケティングにおいて大きな強みとなるでしょう。

“人”の価値はどこに残るのか

生成AIの進化によって、営業やマーケティングの現場で業務の自動化や効率化が進みつつあります。しかし、AIの活用が広がるほどに、「人」が果たすべき役割の重要性もあらためて認識されるようになっています。単にAIがこなせない微妙な調整を担うだけではなく、AIの出力結果そのものの正しさや現実への適合性を担保する責任が、人には求められています。

実際、生成AIは膨大な情報を整理し、提案内容や価値訴求文を自動生成できますが、その内容が必ずしも自社や顧客の実態に合致しているとは限りません。特にバリュー・ベース・セリングのように「一社ごとに異なる価値」を提案する場面では、AIが生成した内容が、現場の肌感覚や文脈、最新の状況とずれてしまうことも十分にありえます。

さらに、生成AIは時に誤った内容や事実と異なる表現を出力することがあります。こうした誤りをそのまま受け入れてしまえば、信頼を損なうリスクにもつながりかねません。AIのアウトプットは必ず人がチェックし、正確性・妥当性を判断したうえで活用することが欠かせません。これは単なる補助的な作業ではなく、AIを営業やマーケティングの現場で使う上での大前提といえるでしょう。

また、顧客との信頼関係の構築や、その場の空気感、微妙なニュアンスを読み取るといった領域は、依然として人ならではの力が求められます。価値訴求の内容自体を練り上げるだけでなく、それをどのように伝え、相手に納得感や共感を持ってもらうかといった「対話」の力は、人が介在することで初めて生まれるものです。

AIができること、できないことを冷静に見極め、AIのアウトプットを鵜呑みにせず、人が最終的な判断と責任を持つ――こうした姿勢こそが、生成AI時代におけるバリュー・ベース・セリングの実践には不可欠です。人とAIがそれぞれの強みを活かしながら協働することが、これからの営業やマーケティングで成果を生み出すための鍵になるはずです。

まとめ ― 生成AI時代の「バリュー・ベース・セリング」とは

バリュー・ベース・セリングの本質は、顧客ごとに「なぜ自社が選ばれるべきか」という価値を見出し、それを的確に伝えることにあります。近年、生成AIの進化によって、膨大な情報から自社ならではの強みを抽出したり、提案内容をより素早く個別最適化したりする新しい可能性が広がっています。

しかし、AIの導入が進む今だからこそ、アウトプットをそのまま受け入れるのではなく、現実に即した価値訴求ができているかを人が責任をもって見極めることがより重要になっています。AIは大量の情報処理や効率化に大きな力を発揮しますが、必ずしも実際の顧客や状況に即した内容を常に提供できるわけではありません。そのため、人が最終的なチェックや判断を担い、必要に応じて内容を調整することで、はじめて本当に意味のある価値訴求が実現します。

生成AIの活用は、価値訴求の質や一貫性を高め、従来の属人的な営業活動から組織全体での提案力強化へとつなげるきっかけを与えてくれます。一方で、AIに頼りきりになることなく、「人」と「AI」がそれぞれの役割を意識しながら協働する姿勢が、今後ますます求められていくでしょう。

バリュー・ベース・セリングを深化させるうえで、生成AIは大きな助けとなりますが、その価値を最大限に引き出すためには、人が現場の感覚や経験を活かし、AIのアウトプットを活用しながら新しい営業スタイルを築いていくことが欠かせません。これからの営業やマーケティングの現場では、テクノロジーと人の力をうまく組み合わせ、自社ならではの価値を一層際立たせていく取り組みが重要になっていくでしょう。

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